ロードバイクの整備において、最も基本でありながら誤解も多いのが「トルク管理」と「グリスの使い方」です。

本記事は、以前受講した**SHIMANOテクニカルセミナー(販売店向け技術講習)**の内容を軸に、
SHIMANOコンポーネントを組み付ける際の正しい考え方を整理したものです。

セミナーで繰り返し強調されていたことは、大きく分けて二つあります。

✓1つ目:適正締め付けトルクを守ること
SHIMANOコンポーネントを組む際は、必ず適正締め付けトルクを守ることです。
これは単なる形式的な話ではありません。

近年はカーボンパーツの使用が増え、締め付けトルクの過不足は、
・安全性の低下
・クランプ部の破損
・変速性能や剛性低下
といった実害に直結します。

「手ルクレンチ」ではなく、トルクレンチを用いた数値管理が前提です。
ロードバイク整備において、トルク管理はもはや選択ではなく必須条件です。

そしてもう一つ、設計思想の変化があります。

かつてはロードバイクを組む際、「とりあえずグリスを塗っておく」という考え方が一般的でした。
金属同士の嵌合が中心だった時代には、それが合理的な場面も確かにありました。

しかし現在のロードバイクのメンテナンス事情では、
・カーボンパーツの増加
・指定トルク管理の厳格化
・ロック剤指定箇所の明確化
・防水・シール構造の変化
といった変化により、グリスの扱い方も変わっています。

グリスを多く塗ること、何でも塗ることが、逆にトラブルの原因になるケースも少なくありません。

つまり、かつてのように「とりあえずグリスを塗る」という考え方ではなく、ロードバイクのグリスは、塗る場所・塗らない場所・適量を理解したうえで使い分けることが前提になっています。

✓2つ目:ロードバイクにおけるグリスの正しい使い方
そして今回の主題がこちらです。

SHIMANOコンポーネントには、
・グリスを塗る場所
・グリスを塗らない場所
・使用する種類が指定されている場所
が明確に存在します。

グリスは「とりあえず塗っておけば良い」というものではありません。
ロードバイクのグリスは万能ではなく、塗る場所と塗らない場所を理解したうえで、適切に使い分ける必要があります。

メーカーの設計思想を無視すれば、
・トルク値が正しく出ない
・固着や異音の原因になる
・カーボンパーツを損傷する
といった問題が起こり得ます。

従来、とりあえずロードバイクを組む際はグリスを塗っとけ的なイメージがあるのかもしれません。しかし現在のではグリスが多すぎたり、塗ることによるトラブル等も起こっています。そんなことにはならないための話、

ということで今回は、
【ロードバイクのグリス】SHIMANOコンポーネントの塗る場所・塗らない場所と正しい使い分け
について、メカニック視点で整理していきます。

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▶グリスはなぜ塗る?なぜ塗らない?
ロードバイクのグリスについての考え方は、過去のSHIMANOテクニカルセミナーでも明確に説明されていました。

テーマはシンプルです。
パーツの組み付け時に、ネジ部へグリスを塗るのか、塗らないのか。

基本的にSHIMANO製コンポーネントは、グリスを塗る場所のみが指定されています。

つまり、指定がある箇所以外にむやみに塗ることは前提とされていません。

✓ 締め付けトルクとグリスの関係
ここで、先ほど触れた締め付けトルクの話に少し戻ります。

ネジというものは、締め付けトルク=固定力ではありません。
トルクはあくまで「回す力」であり、実際に部品を固定しているのは”軸力(ボルトが引き合う力)”です。

ネジ部にグリスを塗布すると摩擦が低減します。
その結果、同じ締め付けトルクで締めた場合でも、
・摩擦が少ない
・より回り込む
・軸力が増加する
という現象が起こります。

つまり、校正された正確なトルクレンチを用いてSHIMANO指定の適正トルクで締め付けたとしても、本来グリスを塗布すべきでない箇所にグリスがある場合、メーカーが想定した軸力とは異なる状態になってしまうのです。

これが、ロードバイクにおける「締め付けトルクとグリスの関係」です。

▶公式マニュアルより
これまでの内容を踏まえ、SHIMANO公式マニュアルに記載されているグリスの塗る場所・塗らない場所を確認していきます。

※基本的に最新の上位モデルのマニュアルより抜粋
※すべて新品組み付け時を想定
※フレームやホイールなど「組み付けられる側」に指定がある場合はそちらを優先

・ブレーキキャリパー:塗らない
※リムブレーキ、ダイレクトマウント、油圧式いずれも、本体固定ボルトにはグリス指定なし(塗らない)
※ブレーキ系で指定があるのは油圧ホース接続部のオリーブおよびコネクティングボルトのみ

・クランク:塗る(指定箇所のみ)
・右クランクアームユニット軸部
・左クランク締結部
・クランクキャップ部
※ボトムブラケット軸と左クランク締結部からのきしみ音が発生した場合、締結部へグリスを塗布し、指定トルクで締め直すと記載あり。

・チェーンリングボルト:塗らない

・ボトムブラケット(BB):塗る(ねじ切りのみ)
※圧入式は別扱い。ここではねじ切りタイプを想定。

・ペダル:少量塗る(ネジ部)
固着防止目的。

・リアディレイラー:塗らない(取り付けボルト)
※ただしP軸(プレート軸)分解時は指定箇所に塗布

・フロントディレイラー:塗らない

・カセットスプロケット:塗らない


意外と塗らない部分が多いです。

▶マニュアル以外で確認する方法
ロードバイクのグリスの扱いは、基本的にSHIMANO公式マニュアルを確認することが前提です。
しかしそれだけではなく、新品パーツの出荷状態を見ることでも、ある程度判断できる場合があります。

近年のSHIMANO製コンポーネントは、塗るべき箇所にはあらかじめグリスが塗布された状態で出荷されていることがあるためです。

✓例:ボトムブラケット(BB)
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こちらです。
スレッド式(ねじ切り)のBB-R9100と、圧入タイプのSM-BB92です。

・スレッドタイプ(ねじ切り式)
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ネジ部にはあらかじめグリスが塗布されています。
さらに、内部(クランク軸が通る部分)にも塗布されています。

これはマニュアル記載どおり、ねじ部へのグリス塗布が前提で設計されていることを示しています。

・圧入タイプ
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一方、圧入タイプはフレームと接する外周部にはグリスが塗布されておらず、内部のみ塗布されています。
これはフレーム側の指定や構造との兼ね合いを考慮した状態であり、マニュアル記載内容と一致しています。

このように、ロードバイクのグリスは「塗るべき箇所には塗られた状態で出荷される」ケースもあります。
新品状態を観察することも、判断材料のひとつになります。

✓ 他社製品の場合
こまでの内容はSHIMANOコンポーネントの話です。

他社製品の場合は、必ずそのメーカーの指定を確認する必要があります。

一例として、TOKEN NINJA のマニュアルでは、圧入式に近い構造であっても「グリス塗布」と明記されています。
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このように、
・組む側のパーツメーカー
・取り付けられる側(フレーム等)
・使用するBB規格
によって指定が異なる場合があります。

✓カーボンパーツの場合
さらに、グリスではなく”カーボンアッセンブリーペースト(滑り止めペースト)”の使用が指定される箇所もあります。

逆に、指定のないメーカーも存在します。
いずれにしても重要なのは、まずはメーカーのマニュアル通りに組むこと。
これがロードバイク整備の大前提です。

▶まとめ
つまり、
ロードバイクの整備といえばグリスは、とりあえずどこにでも塗っておけば良い、というものではありません。

SHIMANOコンポーネントにおいては、
・グリスを塗る場所
・グリスを塗らない場所
・指定された種類を使う場所
が明確に定められています。

締め付けトルクと軸力の関係を考えれば、グリスは単なる潤滑剤ではなく、締結条件を変える要素でもあります。

だからこそ、
「ロードバイクのグリスはどこに塗るのか?」
「塗らない場所はどこか?」
「どう使い分けるのか?」
これを理解したうえで扱う必要があります。

もちろん、プロショップでは使用するグリスの種類や塗布量、部位ごとの使い分けについて、それぞれのショップやメカニックの経験や方針に基づいた方法が採られていることもあります。

しかしその前提にあるべきものは、メーカー公式マニュアルの理解です。
まずは設計思想を正しく知ること。そこから応用が始まります。

ということで今回は、
【ロードバイクのグリス】SHIMANOコンポーネントの塗る場所・塗らない場所と正しい使い分け
についてのお話でした。
参考URL:軸力とは


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