前回のお話はこちらからどうぞ。

前回のお話からです。
今回BR-R8170のブレーキキャリパーの不具合を感じたのはリアで、具合いの悪くなかった同BR-R8170フロントをリアへ、フロントはDURA-ACEのBR-R9170キャリパーを新しく取り付けました。
で交換してみたら交換前と比べても、ぶっ飛ぶぐらいの効きの違いだったわけです。
もちろんブレーキキャリパーがULTEGRAからDURA-ACEに変わった影響もあるかと思いますが、単純にそれだけではなかったのです。

ということで、油圧ブレーキキャリパーBR-R8170前後共に起きていた不具合とは?そんなお話しです。
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▶リアブレーキの不具合とは!?
まず前回のお話でブレーキキャリパーを交換することになってしまった不具合の症状はというと、リアブレーキの戻りの悪さ+引きずりでした。ブレーキを解除したあとも数秒間はブレーキを引きずってしまうという状況です。※熱膨張や反りではありません。
ではまずなぜにピストンの戻りが悪く、引きずりが起きてしまっていたのか、というと、主な原因としてはブレーキを解除してからもピストンの戻りが悪いことによるディスクローターとパッドの干渉から起こる現象です。

構造的に油圧ディスクブレーキのディスクローターとブレーキパッドのクリアランス(隙間)は調整ができません。ではどのようにしてパッドクリアランスが決まるのかというと、ブレーキキャリパーの仕組みを理解する必要があります。
キャリパー内部の詳細はこちらにてご確認いただけます。

シンプルにレバーを握ることで押し出されたピストンは、レバーの解除とともにラバーシールの変形分戻る、というのが油圧のピストンの動きです。
ですのでパッドクリアランス自体は原則キャリパー依存で調整することができません。

では引きずりが起こる現象としては、考えられる原因としてブレーキレバー解除後にピストンが元の位置まで戻らないことで、パッドクリアランスが一時的に狭くブレーキ解除後もパッドとローターの干渉が起こるということです。これが引きずりの正体です。
(※ピストンが戻らないことの原因は多々あります。ピストンの動きを悪くする原因として、物理的な障害(汚れの付着物やラバーシールの劣化等)がある場合もあります。)

とは言っても実際に油圧ディスクブレーキの状況は乗りながら、作動させながら確認ができないことのほうが多いです。ですのでこのように動きの悪さの原因を考えていたのが、あくまでも推測でしかありませんでした。

▶新品のキャリパーを取り付けて気がついたこと
で前回のお話しです。
フロントにDURA-ACEのブレーキキャリパーを新しく取り付け、リアにはフロントで使用していたULTEGRAを取り付けました。するとリアの引きずりとは別の違和感に気がついたのです。

それは何かというと、(大きな差ではありませんが)レバーの引き代にどうしても差が出ている、具体的にはBR-R8170のほうが引き代が少ない、つまりレバー操作が少なくすぐにブレーキが効いてしまうという状態でした。

油圧ブレーキのレバーの引き代はというと、2つの調整方法があります。(正確には引き代ではありませんが、レバーの位置調整機構のお話しです。)
例の如くものすごく簡単に説明します。
①リーチアジャスト調整(※今回はあまり関係ありません。)
→レバーの初期位置の調整
→レバーの初期位置は変わったとしても、レバーの遊びは変わらない
②フリーストローク調整(※今回重要です。)
→パッドコンタクトポイント、レバーの遊び量の調整
※フリーストローク調整はULTEGRA以上のみの機能です。
イメージ的にフリーストロークを狭くするのは、パッドクリアランスを狭くすることと似ている状況になります。もっとわかりやすく書くならば、ホイールを外した状態でブレーキをちょっと握ってしまった状態、レバーに遊びが少なくすぐにブレーキが効いてしまいます。こんな状態です。

詳細は下記のリンクにてご確認頂けます。


ということでまず引き代に差が出ているのはレバー側の問題なのか、それともキャリパー側の問題なのかこの判別をする必要がありました。

▶BR-R8170病
ブレーキキャリパーを交換してレバーの引き代に差があり気になったところでレバー側、キャリパー側の双方を確認します。まず疑うべく部分はシンプルにレバー側、フリーストローク調整ボルトの設定の左右のズレですが、原則調整ボルトはいじっていませんし交換前から左右差はありませんでした。
ではそれ以外で、レバーの遊びが少ない状態になる可能性として考えられるのはというとキャリパー側の問題で、何らかの原因でピストンが出すぎてしまっている(もしくは戻りきらない)これです。

ではピストンが出すぎてしまっている原因として考えられるのは、、、ということを考えても、通常使用をしている中では頻繁に起こるなんてことはないのです。ホイールを外してレバーを握ればピストンはどんどん出てきますが、そんな初歩的な問題ではありません。ピストンの洗浄→オイル塗布後にピストン位置のリセットを何度やったとしても、やはり同じように出てきてしまうのです。(ピストンの動きの悪さの原因としてはピストンの汚れ等の影響も考えられますが、清掃やオイル塗布を行っても改善がありませんでした。)

ということで今回の不具合はというと、何らかの原因でピストンが出すぎてししまう現象が起きている、ということです。ピストンの出過ぎの原因はそこまで多くはなく、多くの場合は直りません。正確にはラバーシール等の交換で対応できる可能性もまったくないわけではありませんが、リペアパーツとしてのラインナップが無い限りは難しいことです。

こういった確認作業を終え、SHIMANOに連絡をしたところ最終的にはフロントも交換になったということでした。というのも製品の不具合の可能性が非常に高いというこからです。(問い合わせの前に考えられる可能性を潰してから問い合わせをすると、お話が早いのです。)
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確かにパッドクリアランスを目視で見ても不具合の出ているBR-R8170は正常に動いているであろう新品のBR-R9170と比べても狭く見えます。とは言ってもおそらくその差はコンマ数mmのお話なので、取り付け位置・セッティング等による誤差か否かの判断も総合的にする必要があります。
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交換しましょう、そうしましょう。。。

▶発見まで時間がかかった理由
これがまた今回一発で不具合発見とならなかった理由として、ワタクシの個体の場合最初はこんなにピストンが出過ぎることがなかったのです。使用しているうちに少しずつ少しずつ動きが悪くなってきたと思われます。これがまた厄介なことで、少しずつ少しずつなので気が付きにくいのです。しかも2つあるのが同時期に同じ症状がおきるという。。。(時限装置のような(笑))
今回のように左右差があればわかりやすいのですが、左右差がないとなるとその判別は難しいと感じました。

ではそこで疑問に思うのですが、では現行のディスクブレーキの適切なパッドクリアランスは!?というと、これも問い合わせを致しましたが適切な数値(要は何mmが適切)というものはないということでした。
しかし極端に狭い場合はやはり何らかの異常の可能性があります。

そして交換後はブレーキの効きが抜群によく感じたわけですが、ではなぜにそこまで効きの変化を大きく感じたのか、ということまで今回は解説致します。

▶サーボウェーブアクション
SHIMANOの技術でULTEGRA以上の油圧ブレーキ用コントロールレバーにはサーボウェーブアクション(サーボウェーブ機構)という構造があります。
これは何かというと、パッドコンタクト(ディスクローターとブレーキパッドが触れるポイント)までは早く動き、その後コントロールがしやすくなるようにレバー比が変更される、というものです。

難しいです。
要はレバー比が一定ではなく、ブレーキの効き初め(パッドコンタクト)までは素早く、効き始めてからはじわりとコントロールがしやすいようにレバー比が変わるというものです。

ということはです。
サーボウェーブの美味しい部分を使用するためには、ある程度は物理的にブレーキレバーに引き代がないとダメということです。
なぜならばパッドクリアランスが狭すぎれば、レバー比が変わり美味しい部分が来る前にブレーキが効いてしまっている、美味しい部分を使えていないことになるからです。
つまり狭すぎるパッドクリアランスはサーボウェーブを無駄にしている状態、ということです。

これらのこともあり、微妙なコントロールがとてもしやすく、効きがよく感じたものと考えられます。


▶まとめ

最初の方にも書きましたがBR-R8170のトラブルですが、少なくはないようです。
ご不安な場合は、お持ち込みいただければ確認等々も含めて行わせていただきます。
ただし判別方法というか不具合の確定に至るまでには、確認事項が複数点ありますので、そういった作業を行う必要性はご承知いただければと思います。お気軽にお問い合わせください。

またせっかく交換するのであれば、ということでブレーキのグレードアップもご相談ください。油圧ブレーキキャリパーのDURA-ACE化ですが、個人的にはかなり満足度が高いカスタムだったと感じています。

ということで今回はULTEGRA 油圧ディスクブレーキ、BR-R8170前後共に起きていた不具合とは?ULTEGRAの12速用ディス部ブレーキキャリパーで意外と多いトラブル、不具合でピストンが出すぎてしまう現象がいつの間にか起きていた。というお話でした。

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