「平地はディープリムが速い」――
もはや定型文のように語られる話です。

しかし、実際にホイールメーカーの風洞実験データを見てみると、35~40mmミドルハイトクラスと50~55mmディープ(セミディープ?)のリムハイト差による空力の違いは、わずか2ワット前後しかありません。

この “2W” という数値は、実は多くのライダーにとって体感できるかどうか微妙なラインで、
一般的には、4W以上の差が出てようやく「軽く感じる」「伸びる」と感じることができると言われる程度です。
それでも多くのインプレではこう語られます。

「ディープの方が明らかに速い」
「同じ力で走っても伸びる感じがする」
「平地はディープ一択!」

しかし実際に試乗会等で感想をお伺いすると、その限りではない場合もあります。

ではなぜ、数値上は小さな差しかないのに、体感では“明確な違い”として感じられるのか?
逆に、まったく差を感じられない場合があるのか。
そこには、プラセボ的に軽く感じているだけ、という可能性もあるのかもしれません。

今回は、ENVE(エンヴィ)の「SES Aero Chart」をはじめとする風洞データと、
実際の走行時に働く帆走効果・慣性・剛性・音の影響といった要素を踏まえ、“ディープリムがなぜ速く感じるのか”を掘り下げていきます。

ということで今回は
ディープリムとミドルハイト、実は数値的な差はたった2W。実際に乗って“明確な違い”を感じる・感じない理由とは?
そんなお話です。
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▶実験データが示す「数値上の差」
各メーカーの風洞実験や公表データによると、
35~40mmクラスから50~55mmクラスにリムハイトを上げた場合の空力差は、おおむね1〜3W前後とされています。

この差は時速40kmで走行しても、40km換算でのタイム差はわずか十数秒程度です。
数字だけを見れば、「平地でディープリムが圧倒的に速い」と言い切れるほどの差ではありません。

それでも現実のライドでは、多くのライダーが「明らかに軽い」「伸びる」と語ります。
その理由は、”風洞実験では再現しきれない“実走特有の要素”が関係している可能性があります。

アメリカのホイールメーカー ENVE(エンヴィ) では、風洞実験の結果を「SES Aero Chart」として公開しています。
このデータは、実際の走行で多く発生する”斜め方向の風(ヨー角)”を考慮して平均化した、現実的な空力データです。

Aero-Data-30-MPH
Aero-Data-30-MPH
Aero-Data-20MPH-1

今回はこの中でもSES3.4(リム高 約39/43mm)とSES4.5(約50/56mm)を比較対象としてみます。
このグラフのYAW ANGLE(ヨー角)0°を見ると、SES 3.4と SES 4.5の差はごくわずかで、どちらもほとんど同じ抵抗値を示しています。

つまり、風洞上の「数値差」は数ワット程度しかなく、リムハイトを10mmほど上げても、空力的には小さな違いしか出ないことが分かります。

ポイントまとめ
・ENVEの風洞テストは 20mph(約32km/h)と30mph(約48km/h) で実施。
・ヨー角0°ではSES 3.4と SES 4.5のリム高の差による空力抵抗の差:約1〜3W
・ヨー角0°での40km換算のタイム差:十数秒程度。

このように、風洞データで見ると“ミドルリム(約40mm)”と“ややディープ(約50mm)”の差は、
理論上わずか数ワットというのが現実です。
しかし、次の章で触れるように、実際の走行ではこの小さな差が「明確な体感差」として現れることがあります。

▶ 実走で「ディープは速い」と感じる理由
風洞ではごく小さな差でも、実際に走ってみると多くのライダーが「ディープの方が明らかに速い」と感じます。
この“体感の違い”には、空気抵抗以外のいくつかの要素が関係しています。

1.風洞では再現できない「帆走効果」
実際の走行では、風は常に真正面から当たるわけではありません。
多くの場合、ヨー角5〜15°程度の斜め風を受けながら走っています。
このとき、ディープリムの断面は“翼”のように空気を受け流し、
空気の流れが生み出す揚力(リフト)成分の一部が進行方向に作用します。
これがいわゆる帆走効果(Sailing Effect)です。

ENVEの「SES Aero Data」によれば、
時速45 km(30 mph)・ヨー角17°の条件下で、
最も浅いリム(SES 2.3)と最も深いリム(SES 7.8)の間には、
最大で約25 Wもの空力差が生じることが確認されています。

ただし、これは両極端なモデル間での比較です。
前章で紹介した SES 3.4(約39/43 mm)と SES 4.5(約49/55 mm) のような
ミドル〜ややディープクラスでは、その差は1〜3 W程度にとどまります。

それでも実走では、ヨー角5〜10°・時速35〜40 km前後でも
3〜6 W相当の“軽さ”として感じられることがあります。
特に効果が大きいのはフロントホイール(全体の約6〜7割)で、
リアホイールは安定性を担う“舵”のような役割を果たします。

この帆走効果こそが、ディープリムを“速く感じる”理由のひとつなのです。

2.回転慣性によるスピード維持
ディープリムはリム外周部の質量が大きく、慣性モーメントが高くなります。
一度スピードが乗ると、その惰性でよく進む――いわゆる“転がりが良い”感覚が生まれます。

加速はやや重たく感じるものの、巡航やロングライドでは速度を保ちやすく、
結果的に疲労の蓄積が少ない走りが可能になります。
これも「楽に速く走れる」と感じる要因の一つです。

3.剛性と反応の違い
ディープリムは構造的に剛性が高く、ホイール全体のねじれが少なくなります。
ペダルを踏み込んだ瞬間に力がダイレクトに進む感覚があり、
「グッと進む」「力が逃げない」という印象を与えます。

これは空力ではなく構造上の違いによるものですが、
結果的に体感速度の向上につながります。

4.音と心理的効果
あの特徴的な「コオオォ…」という風切り音にも効果があります。
人間は音や振動などの感覚をもとにスピードを認識しているため、
この音が「速く走っている感覚」を強化します。

また、ディープリムの安定した走行感と相まって、
ライダーの集中力が高まり、平均出力が安定するという副次的な効果もあります。


✓ 数値では小さく、体感では大きい
風洞実験上では、リムハイトを10〜15mm上げても空力的な差は1〜3W前後。
しかし、実際に走ってみると「明らかに軽い」「伸びる」と感じることがあります。
それは、空力だけでは説明できない複数の要素が同時に作用しているためです。

要素 風洞での差 実走での影響
空力抵抗(正面風) 1〜2W ほぼ誤差
帆走効果(横風) +2〜4W 明確な推進感
慣性・安定性 測定困難 巡航が伸びる感覚
剛性・応答性 測定外 踏み込んだ瞬間の反応
音・心理効果 数値化不可 スピード感と集中力の向上

風洞上では“数ワットの差”でも、
実際に走ると複数の要素が重なり、体感では10W近い差に感じることもあります。


▶ リムが浅くても「速いホイール」がある理由
では逆に実はリムハイトが低くとも、高速域での伸びに不足がないホイールも存在します。

その理由は単純なリム高の差ではなく、
空力・剛性・慣性の“質”にあるといわれています。

1.空力設計の成熟
近年のホイールは、リムハイトよりも「断面形状(プロファイル)」の最適化が進んでいます。
風洞データでは、ヨー角0°ではリムハイト間の差は小さく、ヨー角が5〜15°と増えるにつれて深いリムほど抗力低減が大きくなる傾向が確認されます。一方で、浅〜中ハイトでも近年は断面形状とリム内外幅・タイヤの組み合わせ最適化により、中程度のヨー角で想定以上に抵抗が下がる設計も見られます。

2.ハブとスポークテンションの最適化
ホイールの「伸び」や「安定性」は、リムだけでなくハブやスポークの構造にも強く影響します。

最近の高剛性ハブは、ベアリング精度とフランジ設計の最適化によってトルク伝達ロスを減らし、踏み出しの力を素早くリムに伝えることができます。
この「伝達効率の高さ」が、加速時のレスポンスやスプリントの伸びにつながります。

また、スポークテンションの均一性が高いホイールほど、踏力をムラなく受け止め、コーナリング時のねじれや、力が遅れて伝わるような“たわみ戻り”の発生を抑えます。
これにより、浅リムでも“進む感覚”や“安定した巡航感”を得やすくなります。

3.構造剛性と重量バランス
リムが軽ければ、加速と登坂性能は優れます。
それに加えて構造剛性の高い設計であれば、
踏み込んだ力が“遅れずに伝わる”ため、伸びる=進むと感じやすいのです。

つまり、
“ディープ=空力優位”であることは確かでも、
“ミドル=遅い”とは限りません。

ホイール全体としての剛性・空力バランス・慣性設計の完成度が高ければ、
リムハイトが低くても「速いホイール」は確実に存在します。


▶ まとめ
風洞データの上では、40mmと50mmクラスのリムハイト差はわずか1〜3Wほど。
この数値だけを見ると「誤差レベル」と言われても不思議ではありません。

しかし実際の走行環境では、風向・路面・姿勢変化など、
複数の要素が重なって“空力・慣性・剛性”が同時に働きます。
この相乗効果によって、体感上は10W近い差として現れることもあります。

一方で、そこまで差がないと感じることもあります。
それは、今回ご紹介したような帆走効果をほとんど受けない状況であったり、
リムの重量差が極めて少ない場合などです。
こればかりは、実際に使ってみないと分からない部分も多いと思います。

ですので、各種インプレ等で「大きな差があった」という場合もあれば、
「ほとんど違いを感じなかった」という場合もある。
どちらも“ウソではなく、それぞれの条件下では正解”だということです。

また、最新の浅〜中リムホイールの中には、
設計段階で中程度のヨー角(5〜10°)で揚力的に働く断面形状を持つモデルも登場しています。
単に「ディープ=速い」「浅リム=登り向き」とは言い切れない時代に入りつつあります。

ホイール選びの本質は、
数値上の“速さ”だけでなく、
「どんな速度域・コース・風条件で心地よく走れるか」。

つまるところ究極は、“自分のリズムに合うホイール” を選ぶことにあります。

ということで今回は
ディープリムとミドルハイト、実は数値的な差はたった2W。実際に乗って“明確な違い”を感じる・感じない理由とは?
そんなお話でした。

▶ おまけ:プラセボと実際の違いとは?
先日もお話にありましたが、ホイールのインプレッションで最も難しいのが、“本当に速くなったのか”を判断することです。
ディープリムに替えた瞬間、「風切り音が増した」「走っていて気持ちがいい」「明らかに伸びる」と感じる――この“感覚の部分”に、心理的な補正=プラセボ効果が少なからず存在します。

これは悪いことではありません。
実際、研究でも「機材のアップグレードによるモチベーション向上」がパフォーマンスに直結することが示されています。
つまり、“速くなった気がする”というのは、結果的に脚を回す力が増えているのです。

一方で、風洞データやパワーメーターでの計測を重ねると、
体感と実測の間には明確なギャップが存在することもわかります。
・「風の条件が違えば2Wの差が6Wに感じられる」
・「風切り音の変化でスピード感が増す」
・「剛性が高いと反応が鋭く感じるが、実際の速度差は小さい」

これらは“錯覚”ではなく、感覚と数値のズレ。
だからこそ、「ディープが速い」「軽いホイールが登りに効く」という言葉は、
“正しいけれど、正確ではない”というのが現実です。

重要なのは、数字でも感覚でもなく――
**「走っていて自分が踏み続けたくなるホイール」**を選ぶことです。

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