これからの時期、特に冷え込みが厳しくなる“冬本番”。
この季節になると、毎年のように感じることがあります。
全然進まない……。
猛暑の夏から秋にかけては、暑さという足枷が外れることで調子が上がり、パワーもタイムも伸びていく、いわば上り調子の季節です。
そして、冬が訪れます。すると
— タイムが落ちる。
— 巡航速度が伸びない。
— 同じパワーなのに重く感じる。
しかしこれは、毎年の恒例行事です。
決して落ち込む必要はありません。
では、
・なぜ冬はこんなにも“進まなくなる”のか?
・実際にはどれほどのタイム差が生まれるのか?
・冬ライドで注意すべき点とは何か?
このあたりを整理しながら、厳寒期の“進まなさ問題”を紐解いてまいりましょう。
ということで今回は
冬のロードバイクはなぜ遅い? 気温差で生まれる“パワーとタイムのロス”の話です。
ということで今回は
冬のロードバイクはなぜ遅い? 気温差で生まれる“パワーとタイムのロス”の話です。

▶冬は進まない理由
①空気の密度
まず知っておきたいのは、空気は気温が下がるほど密度が高くなり重くなる、という点です。
まず知っておきたいのは、空気は気温が下がるほど密度が高くなり重くなる、という点です。
気温が下がると空気の密度が上がり、走るときに押しのける“空気の量”も増えます。
その分だけ抵抗が増え、いつもと同じパワーでも速度の伸びが悪く感じてしまいます。
代表的な空気密度の違いを並べると、次のようになります。
・0℃:1.29 kg/m³
・10℃:1.25 kg/m³
・20℃:1.20 kg/m³
・30℃:1.16 kg/m³
20℃と0℃を比べると、空気密度は約7〜8%も増加します。
これを実際の走行に当てはめると、例えば 40km/h 巡航を維持するために必要なパワーは、
20℃では約230Wだったものが、0℃では約247Wと“17Wも余計に必要” になります。
自転車の走行における必要パワーの大部分は空気抵抗が占めています。
そのため空気密度のわずかな違いであっても、実際の走行スピードには意外と大きな影響が出てしまうものです。
気温が低いと「なんか重い」「巡航が伸びない」と感じるのは、まさにこの空気密度の変化と、
それに伴う “パワーロス(余計に必要になるW数)” が原因です。
しかし問題は空気の密度だけではありません。
しかし問題は空気の密度だけではありません。
②冬ウェアの弊害
2.冬ウェアによる動きにくさ
③その他の影響
✓タイヤコンパウンド
冬は気温だけでなく、身に着けるウェアによっても走行抵抗が増えます。
1.空気抵抗増
厚手ジャケットや防風素材のウェア、グローブ、ネックウォーマー、シューズカバーなどを着込むことで、前面投影面積(CdA)が大きくなり、空気抵抗が増えるためです。
厚手ジャケットや防風素材のウェア、グローブ、ネックウォーマー、シューズカバーなどを着込むことで、前面投影面積(CdA)が大きくなり、空気抵抗が増えるためです。
例えば CdA が
・0.28(夏装備) → 0.30(冬装備)
にわずかに増えただけでも、0℃・40km/h巡航を維持するための必要パワーは
・CdA 0.28:約248W
・CdA 0.30:約265W
となり、約18Wのパワーロス が発生します。
2.冬ウェアによる動きにくさ
さらに冬ウェアはどうしても布地が厚く、ペダリング時における下半身の動きだけではなく、腕まわりや上半身の動きまで、ほんの少し重くなる傾向があります。
この“動きにくさ”はペダリング効率の低下につながり、1%ほど効率が落ちると仮定すると 約2〜3W のロス が加わります。
つまり冬ウェアによる影響だけでも、
合計で約20W前後のパワーロス が生まれる計算になります。
③その他の影響
✓タイヤコンパウンド
冬は気温そのものがタイヤにも影響を与えます。
気温が下がるとゴムのコンパウンドが硬くなり、路面への追従性がわずかに悪化します。
その結果、転がり抵抗(Crr)が増えて、同じパワーでもタイヤが転がりにくくなる状態が生まれます。
例えばロードタイヤでは、
20℃ → 0℃ で Crr が 5〜10%程度悪化 すると言われています。
計算上では、40km/h巡航で 約2W前後のパワーロス に相当します。
わずかな数字ではありますが、長距離では確実に積み上がる部分で、冬に「なんとなく進みが悪い」と感じる理由のひとつです。
✓ チェーン・駆動系の粘度上昇
冬は気温低下によってチェーンオイルやグリスの粘度が上がり、チェーン・プーリー・BBといった駆動系の摩擦抵抗が増えることがあります。
出力は同じ250Wと表示されていても、駆動効率がわずかに落ちることで、タイヤまで伝わるエネルギーが減り、結果として「踏んでいるのに進まない」感覚につながります。
実測ベースでは、気温低下により駆動効率が 1〜2% 程度低下 することがあり、
250W出力時で 約2〜5W のパワーロス になる計算です。
▶実際に、速度はどれだけ変わるのか?
ここまで見てきたように、冬は
・空気密度の上昇
・冬ウェアによるCdA増加
・タイヤコンパウンド硬化
・駆動系の粘度上昇
といった複数の要因が重なり、計算上では合計で約35〜40W前後のパワーロス が発生します。
では、そのパワーロスが実際の“速度”にどれほど影響するのか。
同じ250Wを出して走った場合、秋の快適な気温(20℃前後) と、
真冬の厳寒期(0℃前後) で、どれだけ巡航速度が変化するかを比べてみます。
■ 条件
・出力:250W固定
・体重+バイク:70kg
・コース:フラット想定
・秋(20℃):空気密度が低く、ウェアも薄くCdAが小さい
・冬(0℃):空気密度増+CdA増+微ロスを含めた走行抵抗が大きい
20℃前後の秋の条件(空気密度1.20、CdA0.28)で250Wを入れると、巡航速度はおよそ 38.5 km/hです。
一方、冬の条件(0℃)では、前章で算出したように空気密度・CdA・タイヤ・駆動系による合計35〜40W分の抵抗増がかかるため、実質的に 210〜215Wで走っているのと同じ状態 になります。
これを速度に換算すると、冬場の巡航速度は 約36.0〜36.5 km/h 程度に低下します。
つまり、同じ250Wを出していても
秋:38.5 km/h → 冬:36 km/h前後 と、
およそ 2.5 km/h の差 が生まれます。
距離にすると10kmあたり 65秒の遅れ に相当します。
冬に「進まない」「いつもより遅い」と感じるのは、
脚力が落ちたのではなく、
環境側が40W近く“持っていっている”ため に起きる、極めて自然な現象です。
というのは計算上の話です。
では次は実走のデータを見てみようと思います。

▶実測データで確認:気温差だけでここまで変わる
ここまで理論的に「冬は進まない理由」を見てきましたが、実際の走行データでも同じ傾向が確認できます。
普段走っている 1周10km 100mUPの周回コース の記録を比較すると、気温の違いだけで速度が明確に変化していることが分かります。
※以下の内容は、検証目的で走行したものではなく日常の実走データです。そのためパワーや速度には多少のばらつきがありますが、全体の傾向としてご確認ください。
● ソロ実走:10km/100mUPの周回コース
まずはソロで走ったときの記録です。
どちらも同じ周回を似たようなパワーで走っていますが、気温だけで速度が明確に変わります。
秋(20℃前後)の快適気温では、
・速度:36.5〜37 km/h前後
・NP:230〜250W前後
という、出力に対して速度が素直に伸びるデータになっています。
一方、気温4〜6℃の厳寒期に同じコースを走ると、
・速度:32〜33.5 km/h
・NP:230〜240W前後
多少の差はあれども、ざっくりと似たようなパワーで走っているにもかかわらず、
速度が3〜5km/hも低下 していることが分かります。
つまりNP230~250W前後、10km周回の換算のタイム差にすると、
・秋:およそ 16分30秒前後(36.5〜37 km/h)
・冬:およそ 18分00秒前後(32〜33.5 km/h)
つまり 約1分30秒前後の遅れ が生まれます。
獲得100mの登りがあるため、理論で示したパワーロス(約35〜40W)に加え、
登坂負荷や路面温度なども影響し、この差は非常に自然な値です。
● 2名ローテ実走:気温22〜24℃ vs −3〜5℃ の比較
次に、2名でローテーションしながら走った記録を比較します。
集団走行に近くペースが安定しやすいため、外的条件の違いが記録に出やすい走り方です。
秋(20℃前後)の快適気温では、
・速度:37〜38 km/h
・パワー:235〜250W前後(NPベースでは230〜240W帯)
・タイム:16分前後
・タイム:16分前後
(ソロよりも若干早い)
というデータになっており、空気抵抗の少ない季節らしい数字が並びます。
というデータになっており、空気抵抗の少ない季節らしい数字が並びます。
同じ区間を真冬(−3〜5℃)で走ったときのデータは、
・速度:32〜33.5 km/h
・パワー:225〜240W前後(こちらもNPベースでは230〜240W帯)
・タイム:18分前後
と、ソロのときと同じく 4〜5km/hの低下 が見られます。
と、ソロのときと同じく 4〜5km/hの低下 が見られます。
2名ローテはソロよりも条件が均一化されるため、
ここまで明確な差が出るのは、まさに 気温差による走行抵抗の変化そのもの です。
※ソロと2人ローテのタイムがほとんど変わらないことに気づいた方は、目の付け所がとても鋭いです。しかし、これにはきちんと理由があります。
タイムは空気抵抗で決まり、NPは“身体への負荷”で決まるというまったく別の指標のため、走り方やペース配分が変わっても、結果としてNPが揃うことは珍しくありません。
● 実測データの結論
ソロでも2名ローテでも共通しているのは、
・パワーはほぼ同じ(230〜240W前後)
・速度だけが 3〜5km/h 低下する
・10km換算で 1分30秒~2分の遅れ
・冬は環境側に約35〜40W持っていかれる
という点です。
これは脚力の低下ではなく、
気温・空気密度・CdA・タイヤ・駆動系が積み重なって生まれる“冬の必然” です。
※今回の比較は実走データを用いているため、速度やパワーにはある程度のばらつきがあります。
3〜5km/hと幅があるのはそのためで、「絶対値」というより 気温差による実際の傾向 を示したものです。
● なぜ2名ローテでは差がさらに大きくなったのか?
今回の実測では、ソロでの差は約1〜1.5分 だったのに対し、2名ローテでは約2分の差 となりました。
理由は簡単に言うと、
・冬は「ローテーションの恩恵」が気温の影響で小さくなる
という点にありますが、この部分は空力・ドラフト・速度回復など複数の要素が絡むため、またの機会に詳細記事を作ろうと思っております。
▶実走データから逆算してみると、ロスはどのくらいか?
今回の値は理論計算と実走データを並べて比較しているため、ある程度のズレが生じることは大いにありえることです。
ここまで、計算上のパワーロス(約35〜40W)と、実際の走行記録から見える速度差(3〜5km/h)を比較してきました。
では最後に、実走データから逆に“見えないロス”を推定するとどれくらいになるのか を計算してみます。
秋の快適な気温帯(20〜24℃)での周回では、
・速度:36.5〜37 km/h前後
・パワー:235〜250W前後
でした。
一方、冬の厳寒期(−3〜6℃)での周回では、
・速度:32〜33.5 km/h
・パワー:225〜240W前後
となっており、同じ230〜240W付近でも 3〜5km/h 低下 しています。
空気抵抗モデル(½ρCdAv²)で逆算すると、
冬場の 32〜33km/h を出すために必要なパワーは 約210〜215W相当。
つまり、
本来240W出しているのに、実際に“速度として働いている”のは 210〜215W 程度
ということになります。
差し引きすると、
→ 実走から逆算したロス量は 約25〜30W
これは、先に理論で求めた
・空気密度ロス
・CdA増
・タイヤ硬化
・駆動系の粘度上昇
などを合計したロスは およそ35〜40W でしたので、今回の逆算値はそれより少し控えめな数字です。
ともあれ、理論値と実測値には多少のズレはあるものの、どちらも共通して示しているのは「冬は環境に数十ワット単位のエネルギーを奪われ、その結果として速度が 3〜5km/h(10km100mUPの周回コースでは)タイムにして 1分以上平気で落ちる季節である」という事実です。すなわち、“冬は明確にタイムが落ちる(=パワーロスが生まれる)季節だ” という方向性では、理論と実走が完全に一致しています。
▶ まとめ
冬になると「踏んでいるのに進まない」と感じるのは、脚力の問題ではありません。
気温低下による空気密度の上昇、冬装備でのCdA増加、タイヤや駆動系の抵抗悪化が重なり、数十ワット相当のロスが必ず発生する季節だからです。
計算上でも実走データでも、結果は同じ方向を示します。
同じ出力で走っても、冬は速度が3〜5km/h落ち、10kmで1〜1.5分遅くなる。
これは「弱くなった」のではなく、環境が力を奪っているだけのことです。
さらに体感として分かりやすいのが、下り区間の最高速度の差です。
同じ姿勢・同じ出力でも、秋と冬で5km/h以上の差が出ており、空気の重さとウェアの抵抗がそのままスピードに影響していることがはっきりと分かります。
だからこそ冬場は、タイムや速度よりも、
パワー・心拍・身体の反応 に目を向けるほうが賢明です。
春になり気温が戻れば、春になり気温が戻れば、これらのロスが一気に解消され、自然と巡航速度もタイムも伸びていきます。
「冬の重さが抜けたな」と感じたときこそ、冬の間に積み上げた走り込みの成果が顔を出すタイミングだと思います。
ということで
冬のロードバイクはなぜ遅い? 気温差で生まれる“パワーとタイムのロス”の話ということで
そんなお話しでした。
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コメント
コメント一覧 (2)
他にも細かな要因がいろいろあるのですね。
大変勉強になりました。
自分は趣味で計測試験をしております。
「冬は環境側に約35〜40W持っていかれる」
のは確かにその通りですね。
30km/hで走行するために気温35℃では180Wで十分ですが、気温5℃では180W必要です。
転がり抵抗の温度依存性の寄与が意外と大きくて、タイヤの種類によっても変わるようです。
https://note.com/silicate_melt/n/nf6656ccfe7dd
https://note.com/silicate_melt/n/ndbd9bf191a78