ドライブトレインの汚れが走行抵抗を増やす、という話はよく知られています。
具体的には、チェーンやスプロケットに付着した汚れが摩擦を増やし、結果としてロスが生じます。この点については、もはや説明の必要もないほど一般的な認識になっています。
一方で、店で定期的に目にするのが、汚れとはまったく逆の状態です。
外観はきれいで、目立った汚れもなく、一見すると「よく手入れされているように見える」チェーンです。
しかし、よく観察すると、リンク内部に十分な潤滑が行き届いておらず、内部でサビの発生が進み始めているケースが少なくありません。
汚れは少ないものの、潤滑剤も不足している。
この状態もまた、ドライブトレインにとって好ましいものではありません。
本記事では、
・汚れによって生じるロス
・潤滑不足や内部の酸化によって生じるロス
この異なる二つの損失について、整備の考え方という視点から整理してみようと思います。
ということで今回は
きれいすぎても遅くなる? チェーンメンテナンスの落とし穴|汚れと潤滑不足、2つのロス
そんなお話しです。

■チェーンの働き
チェーンの状態を判断するとき、どうしても外から見えるサイドプレートの汚れや色に目が向きがちです。しかし、チェーンが実際に仕事をしているのは、外観として見えているプレート部分ではありません。
むしろサイドプレートは、汚れだけでなく潤滑剤が多すぎても問題になります。とくにフロント変速では、余分な潤滑剤が付着していることで変速に支障が出ることもあり、決して良い状態とは言えません。
本当に潤滑が必要なのは、ローラー、ピン、そして内プレートの摺動部、つまり主にチェーンの内側の部分です。チェーンとギアのローラー部がこすれる点は想像しやすいところですが、潤滑が必要な部分はそれだけではありません。チェーンは走行中、常に屈曲と伸展を繰り返しており、そのたびにリンク内部では金属同士が動き続けています。
このリンク内部が汚れで満たされた状態だけでなく、乾いた状態であっても、摩擦は確実に増えていきます。つまり外観上明らかに問題がある場合だけでなく、汚れがないように見えるときでも、場合によっては内部では抵抗が発生しており、ドライブトレイン全体の効率を静かに、しかし確実に下げていきます。
■チェーンの汚れによる影響
ドライブトレインの汚れが抵抗を生む理由は、決して複雑なものではありません。チェーンやスプロケットに付着する汚れの正体は、主に摩耗粉、砂や埃、そして残留した潤滑剤です。
これらが混ざり合うことで、チェーン内部では本来潤滑の役割を果たすはずの油が、結果的に研磨剤のような状態になります。リンク内部で金属同士が動くたびに、その混合物が噛み込まれ、摩擦が増えていきます。
汚れが多い状態では、チェーンの動きは次第に渋くなり、回転抵抗が増します。その結果、ペダリング時に必要な力が増え、ドライブトレイン全体の効率が低下していきます。
また、この状態が続くと、単に重く感じるだけでなく、摩耗の進行も早まります。チェーンだけでなく、スプロケットやチェーンリングの寿命にも影響が及び、結果として交換サイクルが早まることになります。
汚れによるロスは見た目で比較的わかりやすく、音としてはシャリシャリ、ジャリジャリといった感触を伴うのが特徴です。そのため、多くの場合は「汚れているから洗おう」という判断につながります。ここまでは、多くの方がイメージしやすい部分だと思います。
✓汚れによるパワーロス
一般的に、ドライブトレインの汚れによる損失は、テスト条件にもよりますが、おおよそ5〜10W前後とされています。
仮に巡航出力200W、速度30km/hで走っている状況で5Wの損失が生じた場合、これは出力の約2〜3%に相当します。
この程度の差であっても、50kmを走ると1〜2分程度の時間差になります。
1〜2分あれば、ゴール後に缶コーヒーを飲み終えられるくらいの差です。
1〜2分あれば、ゴール後に缶コーヒーを飲み終えられるくらいの差です。
損失が10W近くになると、その差はさらに大きくなり、無視できない遅れとして積み重なっていきます。
汚れによるロスは徐々に進行していくため、感覚的には気が付きにくいものの、距離を重ねるほど確実に効いてくる損失です。

※ドライブトレインの汚れはチェーンだけではありません。
■きれいすぎても遅くなる?
今回の本題です。
ドライブトレインのロスというと、汚れによる抵抗増加がよく知られていますが、最近よく見られるのは、汚れとは逆の理由で効率が落ちているケースも少なくありません。それが、きれいすぎてもおそくなる、潤滑不良によるロスです。
ドライブトレインのロスというと、汚れによる抵抗増加がよく知られていますが、最近よく見られるのは、汚れとは逆の理由で効率が落ちているケースも少なくありません。それが、きれいすぎてもおそくなる、潤滑不良によるロスです。
この状態の特徴は、外観がきれいであることです。チェーン表面には目立った汚れがなく、一見すると丁寧に手入れされているように見えます。しかし、よく観察すると、リンク内部まで潤滑が行き届いていないことがあります。

一見、ひどく汚れているようには見えません。
しかしこちらよく見ると、、、

内部にしっかりとサビが発生してしまっています。
チェーンが実際に仕事をしているのは、ローラー、ピン、内プレートの摺動部です。ここが乾き錆びた状態になると、金属同士が直接擦れ合い、摩擦が増えていきます。見た目がどれだけきれいであっても、内部潤滑が不足していれば、チェーンとしては良好な状態とは言えません。
✓潤滑不良によるパワーロス
潤滑不良や内部にサビが発生している状態では、リンク内部での摩擦や屈曲抵抗が増え、結果としてドライブトレイン全体の効率が低下します。
これらのロスは、数値として正確に把握することは難しいものの、走行感や音、変速の渋さといった形で体感される場合があります。
整備上の経験や一般的なテストの報告を踏まえると、こうした潤滑不良・内部腐食による損失は、汚れによるロスと同じく「数ワット規模」になる可能性があり、条件次第では無視できない差として積み重なっていきます。(もちろん、サビの状態や進行度によって差は生じます。)
さらに注意したいのは、サビの問題です。サビは抵抗が増えるだけの話ではありません。リンク内部にサビが発生している状態では、金属表面の侵食や応力集中が起こりやすくなり、結果としてチェーンの強度が低下している可能性があります。程度によって差はありますが、内部までサビが進行しているチェーンは、効率が落ちているだけでなく、チェーン切れのリスクが高まっている可能性があります。
汚れが多くても問題になりますが、潤滑が不足していても、同じように効率は低下します。見た目がきれいであることと、状態が良いことは必ずしも一致しません。潤滑不良によるロスは、汚れとは反対の入口から、同じ結果にたどり着く損失であり、場合によっては安全面にも影響を及ぼす要素だと言えます。
■チェーンのメンテナンス
チェーンのメンテナンスは基本的に、
きれいにして、潤滑剤を与える。この二つに集約されます。
一見すると至ってシンプルな作業に思えますが、今回ご紹介してきた
・汚れによるロス
・潤滑不良によるロス
この二つの問題は、どちらもチェーンメンテナンスで生まれることもある状態です。
チェーンメンテナンスの目的はドライブトレインを良好な状態に保つことで、
・パワーロスを最小限に抑える
・摩耗を抑え、各パーツの寿命をできるだけ長く維持すること
・パワーロスを最小限に抑える
・摩耗を抑え、各パーツの寿命をできるだけ長く維持すること
つまり、チェーン本来の性能を最大限に発揮させることにあります。
ところが、やり方を誤ると、その目的とは逆の結果を招いてしまう場合があります。
✓洗浄剤の進化
近年の洗浄剤は非常に性能が高く、汚れとともに油分を落とす力も強力です。
強力な洗浄成分はチェーンをきれいにできる一方で、油分を落としすぎてしまうこともあります。
これは洗浄剤が悪いという話ではありません。
むしろ性能が高くなったからこそ、その後の注油工程が、以前にも増して重要になったと言えます。
✓正しい使い方と考え方
洗浄剤でも潤滑剤でも、どんなに良い製品であっても、使い方が適切でなければ本来の性能を発揮することはできません。
洗浄剤の進化に伴い、チェーンを洗うところまでは、比較的うまくできているケースが多いです。
しかし、問題が起きやすいのはその後の潤滑工程です。
潤滑不良が起きてしまう原因として、弊店でも次のような問題をよく見かけます。
・洗浄剤を十分に洗い流せていない
・洗浄後の水分がチェーン内部に残っている
・潤滑剤の量や使い方が適切でない
いずれの場合でも共通して言えるのは、結果的にリンク内部まで潤滑できていないという点です。
少なくともチェーンの性能を維持するためには、ローラーやピンといったリンク内部まで潤滑剤が浸透していることが、最低限必要な条件になります。
✓販売側の責務
こうしたポイントは、本来であればメーカーや販売店が、しっかりとお客様やユーザー様へお伝えする必要がある部分だと感じています。
どんなに性能の高い製品であっても、使い方を誤れば、本来とは違う状態を生んでしまうことがあるからです。
単に製品を販売するだけでなく、使い方まで含めて責任を持って伝えること。
これは、メンテナンスに関わる立場として、とても大切な部分だと考えています。
■まとめ
チェーンのメンテナンスというと、「汚れているかどうか」だけが注目されがちですが、
実際には汚れすぎても問題があり、反対に油膜が足りないほど“きれいすぎる”状態でも問題が生じます。
適切に潤滑されたチェーンは、気持ちよく回るだけでなく、
パワーロスを最小限に抑え、結果としてより速く、より楽に走ることにつながります。
洗浄剤もチェーンオイルも、重要なのは「どう使うか」です。
洗浄から潤滑までを一連の工程として考え、チェーン内部まで適切な状態を作ることが、バイク全体の性能を引き出す鍵になります。
その中でも、特に意識したいポイントは次の2点です。
①正しい洗浄方法
・ディグリーザーの成分や洗浄後の水分を、チェーン内部に残さないこと
その中でも、特に意識したいポイントは次の2点です。
①正しい洗浄方法
・ディグリーザーの成分や洗浄後の水分を、チェーン内部に残さないこと
②正しい潤滑(注油)
・リンク内部まで潤滑剤をしっかりと浸透させること
・リンク内部まで潤滑剤をしっかりと浸透させること
チェーンをきれいに保つこと、そして正しく潤滑すること。
その積み重ねが、最高の状態のバイクで走るための、いちばん確実な近道だと思います。
ということで今回は
きれいすぎても遅くなる? チェーンメンテナンスの落とし穴|汚れと潤滑不足、2つのロス
そんなお話しでした。
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