ヒルクライムの話になると、必ずと言っていいほど出てくるのが「PWR」という指標です。
※PWR(Power to Weight Ratio)とは、体重1kgあたりにどれだけのパワーを出せるかを示す指標です。
※PWR(Power to Weight Ratio)とは、体重1kgあたりにどれだけのパワーを出せるかを示す指標です。
PWRをシンプルに考えると、同じパワーであれば、「軽いほど有利」という考え方になります。
そのため、PWRを上げる手段として減量が重要だと言われることが多くなります。
もちろん、これは間違いではありません。
上りで重力に逆らって進む以上、体重あたりの出力が重要になるのは事実です。
しかしです。
実際の走行は、そこまで単純ではありません。
例えば、同じPWRであっても、実際のタイムが一致しないことがあります。
また、いくらヒルクライムといえども、減量すれば必ず速くなるのかと言えば、そうとも言い切れません。
さらに平地や緩斜面まで含めて考えると、「軽さ」よりも「絶対的なパワー」の方が重要になる場面も確実に存在します。
このあたりは感覚的に語られやすい部分ですが、少し整理してみると見え方が変わります。
今回は、ヒルクライムでよく使われるPWRという考え方を改めて整理しながら、
・同じPWRでも速さが同じにならない理由
・減量が有効になる条件
・減量よりもパワー向上を優先した方が良い場面
このあたりを順番に見ていきます。
なお、ここで言いたいのは「減量は無意味」という話ではありません。
そうではなく、減量が何に効いていて、何には効いていないのかを明確にしてみる、ということです。

■ PWRは重要だが、速さを完全には説明しない
まず前提として、PWRは非常に重要です。
特に上りでは、出力を体重で割った値が、そのまま走りの実力をかなりよく表します。
ただし、ここで一つ注意が必要です。
PWRはあくまでも、重力に対してどのぐらいの能力があるかを見るための指標です。
速さそのものを、すべて説明する万能指標ではありません。
自転車が前に進むときに抵抗になるものは、大きく分けると重力だけではありません。
実際には、転がり抵抗があり、さらに空気抵抗、そして駆動系の損失など、いくつかの要素が組み合わさっています。
上りで最も大きいのはもちろん重力です。
だからこそPWRが重要になるわけですが、重力以外の抵抗がゼロになるわけではありません。
勾配が比較的緩く、速度がある程度出る場面では、空気抵抗を中心に、転がり抵抗なども含めて無視できない要素として残ります。
ヒルクライムだから軽さだけがすべて、というわけではありません。
勾配や速度によっては、空気抵抗の影響は続きます。
つまり、上りであっても「PWRだけの世界」ではない場面がある、ということです。
■ 同じPWRでもタイムが同じにならない理由
ここは一番面白いところです。
例えば、60kgで240W出る人と、80kgで320W出る人がいたとします。
どちらも4W/kgです。
このとき、「PWRが同じなのだから、上りでは同じ速さになるはず」と考えると思います。
しかし実際には、条件によって差が出ます。
なぜかと言えば、重力に必要なパワーは体重に比例する一方で、空気抵抗をはじめとした他の抵抗は体重そのものでは決まらないからです。
重力についてだけ考えれば、確かに同じPWRなら同じです。
重い人はたくさんのパワーを出せますが、その分だけ重力に対して必要な仕事も増えます。
ここはきれいに相殺されます。
ところが、重力以外の抵抗はそう単純ではありません。
これらの抵抗は、主に速度や空力特性(CdA)によって決まり、体重そのものでは直接決まらない要素です。
ざっくり言えば、どれだけ前面投影面積があり、どのように空気を受ける形になっているかが大きく影響します。
すると何が起きるか。
同じPWRであっても、軽い人の方が総出力は小さくなります。
その結果、空気抵抗を中心とした重力以外の抵抗が占める割合が相対的に大きくなります。
逆に重い人は総出力が大きいため、それらの抵抗の占める割合が小さくなります。
つまり、重さは重力の中で相殺されても、重力以外の抵抗は相殺されないのです。
例えば、空気抵抗で50W消費すると仮定します。
240Wの人は残り190Wで重力と戦いますが、320Wの人は270Wを使うことができます。
これが、同じPWRでも実際のタイムが揃わない理由です。
もちろん現実には、体格差によってCdAも変わるため、実際の差はさらに単純ではありません。
PWRが揃うのは“重力条件だけ”であり、速さそのものが揃うわけではありません。
■ 勾配がきつくなるほど、速さはPWRに強く依存する
ここで次に重要になるのが、勾配です。
勾配が緩いときは、速度がそれなりに出ます。
速度が出るということは、空気抵抗も効きます。
そのため、同じPWRでも空力や絶対パワーの影響が残ります。
一方で、勾配がきつくなると速度は落ちます。
速度が落ちれば、空気抵抗の影響は急激に小さくなります。
そうなると残るのは、ほぼ重力に対してどれだけの仕事ができるか、という世界です。
勾配によって、何が速さを決めるかは変わります。
・8%以上:PWRの影響が非常に大きくなる
・5〜7%前後:PWRと絶対パワーの両方が効きやすい
・4%以下:絶対パワーと空力の影響が大きくなる
要するに、勾配がきつくなるほど“PWRだけの世界”に近づいていくわけです。
ここで重要なのは、「急勾配では軽い人が有利」という言い方をそのまま使うと少し雑になることです。
正確は、急勾配では軽い人が有利なのではなく、PWRの差がそのまま結果に出やすいと言った方が合っています。
減量して速くなるのも、軽いからではありません。
軽くなった結果としてPWRが上がるから速くなります。
この順番は非常に重要です。
■ 減量は“速くなる行為”ではない
ここを一度はっきりさせておきます。
減量は、それ自体が速さを生む魔法ではありません。
減量はあくまでも、PWRを上げるための手段のひとつです。
例えば、300W・60kgなら5.0PWRです。
ここから57kgまで絞れて、なおかつ290Wを維持できれば、約5.09PWRになります。
この場合、重力が支配的なヒルクライムでは確実に速くなります。
ただし、空気抵抗の影響が大きい場面では、この差がそのまま速さに反映されるとは限りません。
しかし、57kgまで落とした結果、出力が280Wまで下がれば、約4.91PWRです。
これはむしろ遅くなっています。
つまり、減量の価値は体重そのものではなく、減量した後にPWRがどうなったかで決まります。
ここを飛ばして、「軽くなれば速い」とだけ考えると危険です。
実際、減量には副作用があります。
筋力が落ちることがありますし、回復力が落ちることもあります。
高強度の維持が難しくなることもあります。
さらに、長時間にわたって出力を安定して維持する能力、いわゆるデュラビリティの面でも悪影響が出ることがあります。
特に、もともと十分に絞れている人ほど、そこから先の減量はリスクの方が大きくなりやすいです。
数字の上では数kg落とせても、その代償としてパワーや回復を失えば、本末転倒になりかねません。
減量は確かに有効な場面があります。
しかしそれは、パワーを落とさずにPWRを上げられる場合に限る、ということです。
■ パワーは重力だけでなく、すべてに効く
一方で、パワーを上げることはどうか。
こちらは話がシンプルです。
パワーは重力に対して効きます。
平地でも効きます。
加速でも効きます。
向かい風でも効きます。
つまり、パワーは基本的にあらゆる場面に効くわけです。
ここが、減量との大きな違いです。
減量が主に効くのは重力成分です。
上りでこそ意味がありますが、平地では効果がかなり薄くなります。
一方で、パワー向上はどこでもそのままプラスになります。
もちろん、パワーを上げるのは簡単ではありません。
数W上げるだけでも時間がかかります。
そのため、短期的には減量の方が数字が動きやすいこともあります。
ただ、それでも本質的には、競技力そのものを押し上げるのはパワーです。
軽くなっただけでは、重力以外の抵抗に対して強くなったわけではありません。
しかしパワーが上がれば、どの抵抗に対しても戦いやすくなります。
この違いは大きいです。
■ 平地はPWRではなく、WとCdAの世界
ここでヒルクライムから少し離れて、平地も考えてみます。
平地では重力による登坂負荷がほとんどありません。
支配的なのは空気抵抗です。
そして空気抵抗の世界では、PWRよりも絶対パワーとCdAがものを言います。
つまり、平地で重要なのは「何W出せるか」と「どれだけ空気抵抗を小さくできるか」です。
ここでは体重を減らす意味はかなり薄くなります。
もちろん、体重減少にともなってフォームが良くなったり、体格が小さくなってCdAが下がるなら話は別ですが、単純に体重だけを落としても、平地ではそれほど大きな武器にはなりません。
むしろ、絶対パワーが高いことの価値が大きくなります。
さらに、ヘルメット、ウェア、ハンドル、ホイール、ポジションといった空力改善の効果も非常に大きくなります。
言い換えれば、ヒルクライムではPWRが強い指標であり、平地ではWとCdAが強い指標です。
この違いを理解せずに、「軽いことが正義」と考えてしまうと、場面ごとの優先順位を見失いやすくなります。
■ では、何を優先すべきか
ここまで整理すると、答えはかなり明確です。
まず、上りで速くなりたいならPWRは重要です。
これは間違いありません。
ただし、PWRを上げる方法として、常に減量が最適解とは限りません。
パワーを維持したまま減量できるなら、それは有効です。
しかし、パワーや回復力を削る減量なら、期待したほど速くならないどころか、むしろ弱くなる可能性があります。
一方で、パワー向上は時間こそかかるものの、競技力そのものを広く押し上げます。
上りでも効き、平地でも効き、加速でも効きます。
さらに中勾配では、絶対パワーの高さが空力の不利を相殺しやすい場面もあります。
つまり、短期的に数字を動かしたいときほど減量に目が向きやすいのですが、長い目で見ると、やはり主役はパワーです。
減量は主役ではありません。
あくまでも、パワーを損なわずにPWRを整えるための補助手段です。
■ まとめ
ヒルクライムではPWRが重要です。
しかし、PWRは速さを完全には説明しません。
同じPWRでも、勾配や速度、空気抵抗の影響によって結果はズレます。
また、減量そのものが速さを生むわけではありません。
速くするのは、減量の結果としてPWRが上がることです。
逆に言えば、パワーを落とす減量は、ただの弱体化になる可能性があります。
平地まで含めて考えれば、なおさらです。
平地では絶対パワーと空力が支配的であり、軽さの価値は大きく下がります。
結局のところ、重要なのは「軽くなること」ではなく、「どれだけ高い出力を維持できるか」です。
減量は条件付きで有効です。
しかし、競技力の中心にあるのはやはりパワーです。
軽くなることが速いのではありません。
PWRが上がることが速いのです。
さらに言えば、上り以外まで含めて考えるなら、
強くなることの価値は、軽くなることよりもずっと広いと言えます。
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