冬から春にかけては、まったく問題なく走れていたはずです。
サドルもレーパンも変えていません。もちろん、走り方が大きく変わっているわけでもありません。
ところが、今のような強烈な暑さの真夏になった途端、急に股の痛みや擦れなどのトラブルに悩まされてしまう。
そんな経験をしたことがある方は、意外と少なくないのではないでしょうか。
私自身も、夏以外の季節では、お股のトラブルに悩むことはそれほど多くありません。しかし、今のような真夏の時期には、股のトラブルに悩まされたことがあります。
本気でつらい記憶です。
最初は少し違和感がある程度です。
ムズムズしたり、ヒリヒリしたり、「なんだか少し変だな」と思う程度から始まります。
それが走り続けているうちに、どんどん痛みが強くなっていきます。悪化すると、ライド中だけではなく、日常生活でも痛みを感じるようになります。
さらにひどくなると、もうライドどころではありません。
ペダリングのたびに電撃のような激痛が走り、自転車には乗りたいのに、サドルに座ること自体が怖くなってしまいます。
そして、このようなトラブルが何度も続けば、せっかくのライドへのモチベーションまで根こそぎ奪われてしまいます。
しかも厄介なのが、冬や春には何ともなかったサドルやウェアでも、真夏になると突然トラブルが起こることがあるという点です。
なぜ、暑くなると股のトラブルが増えるのでしょうか。
今回は、真夏のロードバイクで起こりやすい股のトラブルについて、その原因と対策を考えてみたいと思います。

▶真夏の股のトラブル増加の理由
冬や春にはトラブルもなく問題なく使用できていたサドルやレーパンでも、なぜか真夏になると急に股のトラブルが起きることがあります。
その理由として、まず考えられるのが大量の汗です。
真夏のライドでは、上半身だけではなく、当然ながらレーパンの中にも大量の汗をかきます。さらにサドルに座っている部分は、パッドとサドルに挟まれているため風が通りにくく、汗をかいても簡単には乾きません。
その結果、ライド中は汗の影響でしっかりと水分を含んだパッドと、濡れた皮膚が長時間触れ続けることになります。
そして皮膚は、長時間水分にさらされ続けると、ふやけたような状態になります。
このように皮膚がふやけた状態は「浸軟」と呼ばれています。浸軟した皮膚は、乾いているときよりも摩擦や圧力によるダメージを受けやすくなると考えられています。皮膚が過剰に水分を含むと摩擦係数が高まり、摩擦や圧力による皮膚損傷の危険が増すことも報告されています。
ロードバイクでは、その弱くなった皮膚に対して、ペダリングによる繰り返しの擦れが加わります。
ペダリングのたびに脚は上下し、骨盤も完全に静止しているわけではありません。サドルと接している部分では、小さなズレや擦れが何千回、何万回と繰り返されます。
さらに、擦れが起こるのはペダリング中の動きだけではありません。
サドルから圧力がかかった状態で、路面からの振動や衝撃によって身体とサドルの間に細かなズレが生じます。この小さな動きも繰り返されることで、皮膚への負担につながると考えられます。
つまり真夏の股まわりでは、
大量の汗で皮膚が濡れ続ける
→ 皮膚がふやけてダメージを受けやすくなる
→ 濡れたレーパンやパッドによる擦れが繰り返される
→ さらにサドルからの圧力が加わる
という、股のトラブルが起きやすい条件が重なっていると考えられます。
また、汗が皮膚に長時間残ること自体が、皮膚への刺激になる場合もあります。汗や湿気がこもりやすい場所では、皮膚の赤みやヒリつき、炎症などにつながる可能性もあります。
冬や春と同じサドル、同じレーパン、同じポジションだったとしても、真夏は皮膚とウェアの状態が同じではありません。
そのため、夏になって突然トラブルが起きたからといって、必ずしもサドルやレーパンが合わなくなったとは限りません。
真夏の股トラブルは、サドルやウェアだけではなく、大量の汗によって変化した皮膚の状態まで含めて考える必要がありそうです。
▶股のトラブルの種類
ロードバイクで起こる股のトラブルというと、まとめて「股ズレ」や「サドルソア」と呼ばれることもあります。
しかし実際には、皮膚の表面が擦れているものもあれば、毛穴が炎症を起こしているもの、サドルからの圧迫によって痛みやしびれが出ているものなど、その状態はいくつかに分けられます。
症状によって原因や対処方法も変わってきますが、今回は代表的な2つのトラブルを紹介致します。
皮膚の擦れ・ただれ
最もイメージしやすいのが、レーパンやパッドと皮膚が擦れることで起こる、いわゆる股ズレです。
初期の段階では、ムズムズするような違和感や軽いヒリつき、赤みなどから始まります。
そのまま走り続けると、徐々に皮膚の表面が傷つき、汗がしみたり、触れるだけでも痛みを感じるようになります。さらに悪化すると、皮膚が剥けたり、傷から出血したりすることもあります。
摩擦による皮膚の損傷は、前述のように汗など影響で、皮膚が弱くなっているので、汗を大量にかく時期のほうが多いトラブルとなります。また傷は水分が加わることで悪化しやすくなります。大量の汗をかき、濡れたレーパンと皮膚が長時間擦れ続ける真夏のライドでは、特に注意が必要です。
ニキビのようなできもの
股やお尻に、ニキビのような赤いできものができることもあります。
これは単に皮膚の表面が擦れてできる傷とは異なり、毛穴の奥にある毛包を中心に炎症が起きている可能性があります。この状態は毛嚢炎と呼ばれ、小さな赤い盛り上がりや、白い膿を持ったニキビのような見た目になることがあります。
毛嚢炎は細菌感染によって起こることが多い一方で、摩擦や圧迫などの物理的な刺激によって、毛包そのものが炎症を起こす場合もあります。
ロードバイクでは、汗でふやけた皮膚に繰り返し摩擦が加わり、さらにレーパンによって皮膚が長時間覆われた状態になります。こうした環境によって毛包が傷ついたり塞がれたりすると、皮膚に普段から存在している細菌が入り込み、炎症を起こしやすくなると考えられます。
つまり、皮膚の表面が削れるように傷つく股ズレに対して、毛嚢炎は毛穴を中心として起こるトラブルです。
最初は小さなできものでも、サドルが当たる場所にできると、ペダリングのたびに押されて強い痛みを感じることがあります。
また、毛穴の周辺で起きた炎症が皮膚の深い部分まで広がると、赤いできものから、押すと痛む硬いしこりのような状態になることもあります。さらに炎症が悪化し、内部に膿がたまると、いわゆる「おでき」のように大きく腫れる場合もあります。
ただし、股にできるしこりが、すべて毛穴の炎症から発生するわけではありません。
サイクリストでは、サドルから繰り返し受ける圧力や振動によって、皮膚の下に硬いしこりができることもあります。そのため、赤みや膿を伴うできものと、長期間残る硬いしこりは、分けて考えたほうがよいです。
▶真夏の股トラブルを防ぐための対策
自分に合ったレーパンを選ぶ
何よりも大切だと考えているのが、自分の身体に合ったレーパンを選ぶことです。
高性能なパッドが使われている高級ウェアだからといって、必ずしも股トラブルが起こりにくいとは限りません。
特に重要なのが、骨盤まわりのフィットです。
骨盤まわりが緩く、フィット感が弱い場合、どれだけ優秀なパッドでも身体から浮いてしまいます。浮いたパッドはペダリングや路面からの振動によって動き、そのたびに皮膚との間で擦れが起こります。
汗で濡れた布が、ふやけて弱くなったデリケートな皮膚を何時間も擦り続ける。
想像しただけでも痛そうです。
冬や春には多少のズレが問題にならなかったレーパンでも、真夏では同じように使えるとは限りません。
そのため、夏場のレーパン選びは、ほかの季節以上に慎重に考えたほうがよいと思います。
レーパンを正しく履く
真夏の股トラブルを防ぐためには、まずレーパンを正しく履くことが大切です。
レーパンは、パッドが股にしっかりと密着するところまで十分に引き上げます。
裾のグリッパーが効いて引き上げにくい場合は、グリッパー部分を一度外側へ折り返し、まずはパッドを正しい位置に収めます。
履いたあとは、脚を開いたり軽く屈伸したりして、パッドが股から浮いていないかをしっかりと確認します。パッドの位置が決まったら、最後に折り返していたグリッパーを元に戻します。
せっかく自分に合ったレーパンを使用していても、履き方が浅かったり、パッドが正しい位置に収まっていなかったりすれば、走行中にパッドが動きやすくなります。
特に汗でレーパンが濡れる真夏は、わずかなズレでも長時間繰り返されることで、皮膚への大きな負担につながります。
合うレーパンを複数使い分ける
これは私自身の経験的な考え方ですが、自分に合ったレーパンを何種類か用意し、ローテーションして使用する方法もあります。
メーカーやモデルによって、フィット感、パッドの形状や厚み、縫い目の位置、身体への当たり方は少しずつ異なります。
毎回まったく同じレーパンを使用するよりも、問題なく使えるレーパンを何種類か使い分けることで、いつも同じ場所へ負担が集中するのを多少は避けられる場合があります。
これは、合わないレーパンを無理に使い分けるという意味ではありません。
どのレーパンも、走行中にパッドが動かず、股や骨盤まわりに正しくフィットしていることが前提です。
シャモアクリームを使用
股ズレを繰り返しやすい方や、長時間のライドを予定している場合は、走り始める前からシャモアクリームなどの摩擦を減らす製品を使用する方法もあります。
痛みが出てから塗るのではなく、自分が擦れやすい場所へ事前に使用しておくことが予防につながります。皮膚とパッドの間に薄い保護層を作ることで、摩擦を抑える効果が期待できます。
ただし、たくさん塗ればよいというわけではありません。
油分の多い製品を厚く塗ると、真夏の高温多湿な環境では毛穴を塞ぎ、毛嚢炎のようなトラブルにつながる場合もあります。自分の皮膚との相性を確認しながら、必要な場所へ適量を使用することが大切です。
真夏のライドでは、大量の汗によってシャモアクリームが流れたり、時間の経過とともに薄くなったりすることもあります。
汗で流れやすい場合は、少し硬めで皮膚に残りやすい製品を選んだり、長時間のライドでは休憩のタイミングで塗り足したりする方法もあります。
また、少しでも擦れや違和感を感じたときにすぐ対応できるよう、シャモアクリームを小さな軟膏容器などへ移し替えて携帯しておくのもよいと思います。
ワセリンも硬さや皮膚への残りやすさという点では使いやすいのですが、レーパンやパッドに付着すると洗濯で落とすのが大変です。
そのため、使用後の洗いやすさまで考えると、私は自転車用の専用品のほうが扱いやすいと感じています。
ライド後は濡れたレーパンをすぐに脱ぐ
ライドが終わったあとも、股トラブルの予防は続きます。
走り終わってからも、汗でビショビショになったレーパンを長時間履いたままにしている方も多くはないとは思います。
走行後は皮膚に汗や湿気が残り、濡れたレーパンに覆われた状態が続けば、せっかく擦れずに走り終えたとしても、皮膚や毛穴への負担は続いてしまいます。
ライド後は、できるだけ早く濡れたレーパンを脱ぎ、皮膚をやさしく洗って清潔にします。レーパンもそのまま放置せずに早めに洗濯し、十分に乾かしてから次に使用します。
高温多湿の環境で運動したあとは、汗で濡れたウェアから早めに着替え、身体を洗うことが毛嚢炎の予防にもつながります。
油断しない
そして、真夏の股トラブルで最も油断してはいけないのが、最初に出る小さな違和感です。
少しムズムズしたり、わずかにヒリヒリしたり、押すと少し痛い場所がある。
この段階であれば、ライドを短くしたり、休養を入れたりすることで、大きなトラブルになる前に抑えられる可能性があります。
ところが、「このぐらいなら大丈夫だろう」とそのまま走り続け、皮膚に明確な傷を作ってしまうと、汗、摩擦、圧力によってさらに悪化しやすくなります。
股に傷ができた状態で無理に乗り続けると、傷が治りにくくなり、その後のライドまで長く影響することがあります。実際に擦れが起きた場合は、原因となる運動を休み、皮膚が回復する時間を作ることも必要です。
自転車に乗りたいからこそ、無理をしない。
真夏の股トラブルでは、その判断が何よりも大切です。
▶股のトラブルが起きてしまったら
どれだけ気をつけていても、股ズレやできものなどのトラブルが起きてしまうことはあります。
そんなときに大切なのは、ひどくなる前に休むことです。
股にできた傷やできものは、サドルに座れば圧力がかかり、ペダリングをすれば繰り返し擦られます。さらに真夏は大量の汗によって皮膚が濡れ続けるため、無理に乗りながら治すことは簡単ではありません。
「このくらいなら大丈夫だろう」と乗り続けたことで、数日で治るはずだったものを、何週間も引きずることにもなりかねません。
少しでも悪化していると感じたら、自転車を休み、皮膚が回復する時間を作ることが大切です。
また、強い痛みや腫れ、膿、硬いしこりがある場合や、休んでもなかなか改善しない場合は、自分だけで判断してこじらせる前に、皮膚科などの医療機関へ相談したほうがよいでしょう。
自転車に乗りたいからこそ、無理をしない。
真夏の股トラブルでは、その判断が何よりも大切です。
また、自己判断で手元にある薬を塗り続けることも避けたほうがよいでしょう。
股ズレ、毛嚢炎、その他の皮膚炎では、見た目が似ていても必要な対処が異なります。
なかなか治らない、繰り返し悪化する、強い痛みや腫れがある場合は、薬でごまかして乗り続けるのではなく、こじらせる前に皮膚科などの医療機関へ相談することをおすすめします。
▶まとめ
股ズレや股の痛みは、本当につらいものです。
こればかりは、実際に経験したことがある人にしか分からない痛みかもしれません。ひどくなると、ペダリングどころではなく、サドルに振れるだけでも激痛が走り、自転車に乗ること自体かなり辛いことになるほどです。
そうならないためにも、まずは真夏になると股のトラブルが増えやすいということを、しっかりと頭に入れておくことが大切です。
トラブルが起きてから対処を考えるのではなく、先手先手でトラブルが起きないように予防していくことが重要です。
そして、無理をしないことです。
これはトレーニングでも同じですが、「少しくらいなら大丈夫」「まだいける」と無理を続けることで、長期間乗れなくなってしまっては意味がありません。
私自身、真夏のライドは好きです。
暑さの中を走る楽しさもありますし、夏にしか味わえない景色や空気もあります。
だからこそ、股のトラブルだけではなく、熱中症にも十分注意しながら、真夏のライドを楽しんでいただければと思います。
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