新型DURA-ACEホイール、WH-R9370シリーズが登場したのは記憶に新しいところです。

SHIMANOのホイールといえば、先代のDURA-ACE WH-R9270シリーズでは、フリーボディにHGスプラインL2が採用され、実質的に12速専用のホイールとなったことも大きな変更点でした。

従来の11速カセットは使用できず、サードパーティ製を含めた軽量スプロケットなども基本的には選択肢が限られるため、この点は購入時に注意が必要なホイールでもありました。

そして今回登場したWH-R9370シリーズ。まず目につくのは大幅な軽量化と、かなり今風へと変化したリムプロファイルです。特にC50、C60といったディープリムモデルまで大きく軽量化され、DURA-ACEとして初めて採用されたカーボンスポークも大きな話題となっています。

しかしSHIMANOの技術資料などを詳しく見ていくと、個人的に興味が湧いたのは重量やカーボンスポークだけではありません。

30Cタイヤを意識して大きく見直されたリム形状、現在では少数派となったカップ&コーン式ハブの継続、さらに従来の弱点ともいえた玉受け側まで交換可能とした構造。そしてカーボンスポークについても、単純に既存品を採用しただけではないことが見えてきます。

最新技術だからという理由だけで取り入れるのではなく、本当に性能向上につながるものは積極的に採用する。一方で、昔から使われている構造であっても合理性があるものは残し、より良くできる部分にはしっかりと手を入れています。

今回のWH-R9370を細かく見ていくと、そんな「SHIMANOらしさ」が随所に感じられます。

今回はWH-R9370の重量、カーボンスポーク、空力性能、そしてカップ&コーン式ハブなど、その構造を詳しく見ながら、新型DURA-ACEホイールの性能と、そこから見えてくるSHIMANOの設計思想について考えてみたいと思います。

DURA-ACE


✓重量 最大220g軽量化を果たす
新型DURA-ACE WH-R9370で、まず目を引くのが大幅な軽量化です。
前モデルWH-R9270と比較すると、前後セットの重量は以下のように変わりました。

・C36:1350g → 1170g 180g軽量化
・C50:1461g → 1302g 159g軽量化
・C60:1609g → 1389g 220g軽量化

はっきり言ってしまうと、旧モデルは強豪他社のホイールと比較しても、少々重いという印象がありました。特にC60は60mmハイトで1609g。空力性能を重視したディープリムとはいえ、気軽に手を出せるホイールとは言い難い重量でした。

しかし新型WH-R9370シリーズでは一転して、大幅な軽量化を実現しています。

特にC60は60mmハイトでありながら1389g。旧型のC50よりも軽く、旧C60からは実に220gもの軽量化をしています。60mmクラスのディープリムとして考えても、かなり軽量な部類に入ってきました。

この軽量化に関してSHIMANOはリムのカーボン積層をはじめ、ハブ、スポークまで含めてホイール全体を見直し、トータルで軽量化を進めています。

その中で今回、特に目を引く変更のひとつが、DURA-ACEホイールとして初めて採用されたカーボンスポークです。

✓カーボンスポークの重量
では、金属スポークからカーボンスポークへ変更することで、実際にはどの程度軽くなるのでしょうか。カーボンスポークを一般的な金属スポークと比較してみます。

例えばロードホイールでよく使われるSAPIM CX-Rayの260mmストレートプルは、実測例で1本約4.3g。一方、一般的なVONOAカーボンスポークは仕様によって異なりますが、1本約2.8~2.9g程度とされています。

単純計算すると1本あたり約1.4~1.5gの差です。
仮に21本組のホイールなら、約1.4~1.5g × 21本 = 約29~32gです。
つまりスポークだけで、ホイール1本あたり約30g前後軽くできる計算になります。

C50はフロント、リアとも21本なので、一般的な金属エアロスポークから同程度の重量差があるカーボンスポークへ変更したと仮定すれば、前後でおよそ60g程度の軽量化になります。なお、WH-R9370に使われるスポークそのものの重量はSHIMANOから公表されていないため、これはあくまで一般的なVONOAと金属エアロスポークを使った参考値です。C50が前後21本であることは公表されています。

ここで面白いのが、新型C50全体では159gも軽くなっていることです。

つまり、仮にスポークで60g前後軽くなったとしても、それだけでは159gの軽量化を説明できません。

今回のWH-R9370は「金属スポークをカーボンスポークに交換して軽くしたホイール」ではなく、リムのカーボンレイアップやハブまで含めて、ホイール全体を作り直した結果としてこの重量になっている、と考えたほうがよさそうです。SHIMANO自身もリム・ハブ・スポークを含めたトータル設計による軽量化としています。

✓カーボンスポークの重量以外のメリット
カーボンスポークのメリットは、単純な軽量化だけではありません。SHIMANOはWH-R9370のスポークについて、ホイールの横剛性や反応性、加速性能、そして入力した力をどれだけダイレクトに推進力へ変えられるかにも関わる構造部品として説明しています。

そのためWH-R9370では、用途に応じてスポーク本数や配置も変えられています。例えばオールラウンドモデルのC50は前後21本ですが、スプリントや高速走行を重視するC60ではリアを24本とし、高出力時に必要な剛性を高めています。

つまり今回SHIMANOがカーボンスポークに求めたのは、単純に重量を減らすことだけではなく、軽量化しながら各ホイールの用途に合わせた剛性や反応性を作ることだったと考えられます。


✓同じVONOAでも「DURA-ACE専用品」
WH-R9370に採用されているのはVONOA製のカーボンスポークです。

しかし株式会社フカヤの説明によれば、他社ホイールに使用されているVONOAスポークをそのまま採用したものではなく、SHIMANOの品質要求を満たすために作られた特注仕様とのことです。

個人的には、ここも非常にSHIMANOらしい部分だと感じます。

私自身、以前VONOA製カーボンスポークを採用したホイールを修理する際、カーボンスポークを切断して交換したことがあります。その際、切断したスポークの一部はカーボン繊維が割れるように弾け、非常に細かな繊維が周囲へ飛散しました。
カーボンスポークは金属スポークとは破損時も違う、ということは実際の作業を通して感じています。

またWH-R9370では、スポークが万が一破損した際にもハブから完全に抜け落ちにくい構造を採用するなど、フェイルセーフについても考慮されています。

単に、「軽いから、流行っているからVONOAを採用した」ということではなく、DURA-ACEとして求める性能や信頼性まで確認したうえで採用したということです。最新素材を使いながらも、そこをそのまま使わない。このあたりにもSHIMANOらしさを感じます。

✓空力性能の向上
これだけ軽量化すると、「重量を優先した分、空力性能はどうなのか?」という点も気になります。

スペック上は非常に軽量で、リムハイトも十分にあるものの、リム幅がやや狭く、現在のワイドタイヤとの組み合わせでは空力面で不利になりそうなホイールも見かけます。

しかしWH-R9370では、軽量化だけでなく空力性能についても旧型から大きく見直されています。

リム内幅は従来の21mmから23mmへ拡大され、28~30Cタイヤを意識した設計へ変更。さらにC50とC60では、フロントとリアでリム外幅や断面形状まで変えられています。

・C50:フロント31mm/リア32mm
・C60:フロント31.5mm/リア32.3mm

内幅23mmに対して外幅31mm前後という寸法は、現在主流となりつつある28~30Cタイヤとの組み合わせを強く意識したものと考えられます。

例えば、私が使用している最新のGOODYEAR Eagle F1 RSでは、内幅23mmのリムに装着した際、28Cで実測約30.5mm、30Cでは約31mmになります。

つまりフロントリム外幅とタイヤ実幅がかなり近い寸法になります。

空力性能を考えるうえでは、単純にリムハイトが高ければよいわけではなく、タイヤとリムをひとつの形状として考えることが重要です。その点でも、WH-R9370は現在のワイドタイヤを前提とした、かなり今風のプロファイルになったと言えそうです。

さらに興味深いのが、フロントとリアでリム形状を変えていることです。

前輪は最初に空気を受ける一方、後輪にはフレームやライダーなどによって乱れた空気が流れ込みます。そのため、前後輪で求められる空力特性は同じではありません。

個人的にも、空力性能を突き詰めるのであれば、フロントとリアで異なるリム形状を採用することには合理性があると考えています。

そしてSHIMANOが30Cタイヤ、48km/hという条件で行った試験では、旧型と比較して空気抵抗を最大2.7W低減しています。

特に注目したいのは、SHIMANO自身が30Cタイヤを使って空力試験を行っていることです。

もちろん、これだけで「今後は30Cが中心になる」と断言することはできません。ただ、少なくともWH-R9370が従来の25~28C中心ではなく、28~30Cクラスのワイドタイヤを強く意識して開発されたホイールであることは間違いなさそうです。


では、WH-R9370は他社製の最新ホイールと比較しても速いのでしょうか。

Cyclingnewsが2024年に行った第三者機関による風洞試験では、旧型DURA-ACE WH-R9270-C50もテストされています。この試験ではScope Artech 6.Aなどが非常に優秀な結果を出しており、旧型C50も決して空力性能が低いわけではないものの、トップクラスには一歩届かない結果となっていました。

さらに2026年には、Silverstoneの風洞で最新世代のホイールを比較する大規模なテストが行われています。HUNT 5AM Limitless、Reserve 57|64、Scope Artech 6.Aなどがトップグループとなりましたが、上位製品同士の差は非常に小さく、現在の高性能エアロホイールは1W前後、場合によってはそれ以下の差を競う世界になっています。

残念ながら、このテストが行われた時点ではWH-R9370はまだ発売前だったため、比較対象には含まれていません。

しかし旧R9270からSHIMANO公表値で最大2.7Wもの空気抵抗を削減していることを考えると、現行トップクラスのホイールと十分に競える可能性はあると考えられます。

そして個人的に興味深いのが、これだけ空力性能を高めながら、重量を犠牲にしていないことです。

空力性能だけを追い求めるのであれば、リムをより深く、大きくしていく方法もあります。一方、軽さだけを追い求めるのであれば、リムハイトを低くするほうが有利です。

しかしWH-R9370では、C50で1302g、C60でも1389gという軽さを実現しながら、旧型を上回る空力性能も両立しています。

この「どれかひとつの性能だけを突出させるのではなく、重量、剛性、空力性能を高いレベルでまとめる」という考え方こそ、SHIMANOがWH-R9370で掲げる「Balanced to Win」というコンセプトなのだと思います。

このあたりにも、今回のWH-R9370らしさ、そしてSHIMANOらしさがよく表れているように感じます。

✓カップ&コーン継続
そして個人的に、WH-R9370を見て最も「SHIMANOらしい」と感じたのがハブです。

カーボンスポークを採用し、リム形状も大きく作り直した最新鋭のDURA-ACEですが、ベアリングには今回もカップ&コーン式が採用されています。

現在、多くの高性能ホイールではカートリッジベアリングが使われています。
特に予圧調整機構を持たないタイプでは、ハブシェル、ベアリング座、センタースリーブ、エンドキャップなど、それぞれの部品寸法によって適正なベアリング状態を作ります。設計どおりの寸法に仕上がっていれば、非常に合理的な構造です。

しかし実際に多くのホイールを触っていると、このような予圧調整機構を持たないタイプでは、新品にもかかわらずガタがあったり、逆にスルーアクスルを締め付けるとベアリングの回転が明らかに重くなったりする製品を見ることがあります。

もちろん、これはカートリッジベアリングそのものが悪いという話ではありません。
問題となるのは、部品の寸法精度だけで最終的な予圧やガタを決める構造の場合です。各部品の公差が積み重なれば、その差がそのまま完成したハブの回転状態に表れることがあります。

一方、SHIMANOのカップ&コーンは考え方が異なります。

寸法だけで適正状態を作るのではなく、最後に球当たりを調整することで、ガタがなく、それでいて予圧が強すぎない状態へ持っていくことができます。

この違いは、実際に整備する立場から見るとかなり大きいと感じています。

そして今回SHIMANOは、カップ&コーンを単に昔から使い続けているわけではなく、その回転性能についても改めて検証しています。

公式資料では、スルーアクスルによる締付力5000N、垂直荷重500N、駆動方向荷重200Nを加えた実使用に近い条件で比較した結果、カートリッジベアリングに対してカップ&コーンは回転トルクを約30%低減したとしています。

ここで重要なのは、単体のハブを手でスルスルと回して比較したわけではないことです。
新品のホイールを手に持って空転させ、「よく回るハブ」と評価するのとは少し見ているものが違います。スルーアクスルによる締付力に加え、乗車時の垂直荷重やペダリング時の荷重まで加えた状態、つまり「実際に使用したときの回転状態」を見ています。

しかも今回、従来のカップ&コーンをそのまま使い続けたわけでもありません。

WH-R9370では新たに、ハブ本体側の「ベアリングカップ=玉受け」を交換可能な構造とし、さらにシール性能も改善されています。これはかなり大きな変更です。

従来のカップ&コーンでは、ボールやコーンは交換できても、ハブ本体側の玉受けは交換できません。また、ハブ本体そのものも補修部品として供給されていません。
つまり、ハブ本体側の玉受けを傷めてしまうと、それが実質的にホイールの寿命につながることでもありました。

しかしWH-R9370では、その玉受け側まで補修部品として交換できるようになりました。

つまり、カップ&コーンを昔のまま残したのではなく、従来の弱点だった部分を改善し残したということです。

ただし過去には、SHIMANOのカップ&コーンは交換できないハブ側の玉受けを最も傷みにくくするよう、部材ごとに硬さを変えているという話もありました。実際、長年この構造を採用してきたことを考えても、玉受け側の耐久性には相当な自信があったのだと思います。

それでも今回のWH-R9370では、さらに一歩進めて、その玉受け側まで交換可能な構造へ変更されました。

従来は傷めないことを前提に作り込んでいた部分まで、今回は交換可能にしたということです。

つまり、カップ&コーンを昔のまま残したのではなく、そのメリットは残しながら、これまで修理が難しかった部分にまで手を入れたことになります。
ここにも今回のDURA-ACEホイールの設計思想、そして非常にSHIMANOらしい部分がよく表れているように思います。


▶まとめ
WH-R9370を見ていくと、単純に「軽くなった」「カーボンスポークになった」というだけでは、このホイールの面白さは語り切れないように思います。

大幅な軽量化だけではなく、ワイドリム化によって現在の28~30Cタイヤに合わせた空力性能の向上も図られています。そしてカーボンスポークも、ただ軽さだけを求めるのではなく、剛性や反応性まで含めて専用設計されています。

ハブについても、現在主流となっているカートリッジベアリングへ安易に移行するのではなく、実走に近い条件で改めて検証したうえでカップ&コーンを継続。さらに今回は、従来交換できなかった玉受け側まで交換可能な構造へと進化しています。

まさに、DURA-ACEらしい正統進化を遂げた内容だと思います。

そして気になるお値段は、前後セットで約43万円です。

もちろんホイールとして考えれば、決して安い金額ではありません。

しかし最近のハイエンドホイールを見ると、BORAの上位モデルは約52万円、MAVIC COSMIC ULTIMATEは約75万円、ROVAL RAPIDE SPRINT CLXも約48万円という価格帯です。

一方のWH-R9370は、SHIMANOの最高峰であり、最新技術を惜しみなく投入したDURA-ACEホイールで約43万円。

現在のハイエンドホイール市場全体を見渡してみると、WH-R9370は決して飛び抜けて高価な製品ではありません。むしろ今回投入された技術や作り込みまで考えると、価格と性能のバランスまで含めて、かなりSHIMANOらしくまとめてきたホイールなのかもしれません。

WH-R9370は、重量やリムハイトといった数字だけを見てもかなり魅力的なホイールです。しかし細かな構造まで見ていくと、それ以上に「なぜこの構造を選んだのか」という部分に、SHIMANOらしさが感じられる新型DURA-ACEホイールだと思います。

WH-R9370シリーズは、弊店でもご注文を承っております。
ご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。

個人的には60が。。。



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