近年のロードバイク、とくに空力性能を重視したレーシングモデルは、以前とは大きく異なる形状へと変わってきました。
従来のエアロロードといえば、各チューブを正面から見て薄く狭く、前後方向に長いブレード形状とすることで、前面投影面積と空気抵抗を減らす設計が主流でした。
しかし現在では、単純にフレームを薄く細くするだけではなく、ホイールやライダーまで含めて空気の流れを整える方向へ、設計思想そのものが変化しています。
左右へ大きく広がったワイドなフロントフォーク、細く絞られたヘッドチューブ、リアタイヤに沿うように湾曲したシートチューブ。そして専用の一体型ハンドルも、単なる付属部品ではなく、フレームを構成する一部として開発されるようになりました。
昨今の空力性能に優れたロードバイクは、その見た目からも「いかにも速そう」と感じさせる、個性的なデザインが増えています。
その代表格ともいえるのが、Factor ONEです。
大きく左右へ開いたフロントフォークと、極端に細く絞られた独特のフロントセクションを持ち、従来のロードバイクとは明らかに異なる姿をしています。
一方、SpecializedのTarmac SL9は細部まで空力性能を追求していますが、Factor ONEやColnago Y1Rsほど極端な外観ではありません。
では、見た目がこれほど違えば、実際の空力性能にも圧倒的な差があるのでしょうか。
最近公開された風洞試験の結果を見ていくと、どうやら話はそれほど単純ではないようです。
今回は、なぜ現代のロードバイクが現在の形になったのか。そして空力性能が煮詰まった先で、ロードバイクは次にどこへ向かうのかを考えてみたいと思います。

▶ロードバイクにおいて空力性能が重要な理由
近年の研究や走行シミュレーションを見ても、ヒルクライムのように低速かつ勾配の影響が大きい場面だけを切り取らなければ、わずかな軽量化よりも、空気抵抗や転がり抵抗を抑えることの方が、走行時間へ大きく影響する場合が多いと考えられています。
つまり現在のロードバイクにおいて、速く走るために空気抵抗をいかに抑えるかは、非常に重要な要素です。
速度が上がるほど空気抵抗は急激に増え、空気抵抗に打ち勝つために必要なパワーは、概ね速度の3乗に比例して大きくなります。高いレース速度では、走行抵抗全体に占める空気抵抗の割合が約90%に達することも報告されています。
そのため、現在のレーシングバイクが空力性能を重視すること自体は、極めて合理的です。
しかし、空力性能を考えるうえで、忘れてはいけないことがあります。
それは、実際に走るのはバイクだけではないということです。
ロードバイクには必ず人間が乗り、ハンドルを握り、脚を動かしてペダリングします。そしてライダーの身体は、バイクよりもはるかに大きな面積で風を受けます。
競技自転車の空力に関する研究レビューでは、空気抵抗の少ない姿勢であっても、車体がライダーとバイクを合わせた空気抵抗全体に占める割合は約20%。残りの約80%は、ライダー側が生み出しているとされています。
さらに、ライダーの空気抵抗は一定ではありません。ペダリングによって脚の位置が変わると、脚の周辺だけでなく、背中や腰の後方にできる空気の流れまで変化します。実験では、クランク角度によってライダーの空気抵抗が大きく変動することも確認されています。
もちろん向かい風、追い風、横風など、風向きや風速によって、ライダーとバイクが受ける空気の流れは変化します。とくに横方向から風を受ける角度、いわゆるヨー角が変われば、同じバイクでも空力性能は変わります。
もちろん向かい風、追い風、横風など、風向きや風速によって、ライダーとバイクが受ける空気の流れは変化します。とくに横方向から風を受ける角度、いわゆるヨー角が変われば、同じバイクでも空力性能は変わります。
つまり、止まった状態のフレームや、脚を固定したマネキンだけでは、実際の走行状態を完全に再現することはできません。
ロードバイクの空力性能を考えるときに本当に重要なのは、フレーム単体の空気抵抗ではなく、ライダーとバイクを一つのシステムとして見たとき、全体の空気抵抗をどれだけ小さくできるかということです。
▶車体単体で最速でも、人が乗って最速とは限らない
このことがよく分かるのが、Cyclingnewsが行った風洞試験です。
この試験では、Factor ONEとCervélo S5を含む最新のエアロロードを、車体単体とライダー込みの両方で測定しています。
40km/hにおける結果は、次のようになりました。
| テスト条件 | Factor ONE | Cervélo S5 | 差 |
| 車体単体 | 61.51W | 65.06W | ONEが3.55W優位 |
| ライダー込み | 約273.17W | 273.12W | S5が0.05W優位 |
車体単体では、Factor ONEがS5より約3.6W優れています。ところがライダーを乗せると、その差はほぼ完全に消え、S5が0.05Wだけ上回りました。
0.05Wは測定誤差の範囲であり、実質的には同等と考えてもよい差です。
ここで注目したいのは、世界最速級の空力性能を持つFactor ONEでさえ、車体単体で得ていたS5に対する優位性が、ライダーを乗せるとほとんど残らなかったことです。
一方のS5は、車体単体では中位にとどまりながら、ライダー込みでは最速となりました。
この結果は、フレーム単体の空気抵抗を減らすことと、ライダーを含めたシステム全体を速くすることが、必ずしも同じではないことを示しています。
フロントフォークやヘッドチューブ、ハンドル周辺を通った空気は、その後ろにいるライダーへ流れていきます。車体単体では抵抗が少ない形でも、後方のライダー周辺で大きな乱れを生み出せば、システム全体では期待したほどの効果が残らない可能性があります。
反対に、フレーム単体では飛び抜けていなくても、ライダーの脚や胴体へ流れる空気までうまく処理できれば、人間込みでは優れた結果になる可能性があります。
ただし、この試験で使用されたホイール、タイヤ、コンポーネントなどは完全に同一ではなく、S5は1×仕様だったため、その影響も考慮する必要があります。
それでも、「車体単体で速いバイクが、人間を乗せても同じ差で速いとは限らない」ということを考えるには、非常に興味深い結果です。
▶最新のトップモデル同士では差が小さくなっている
もう一つ興味深いのが、SpecializedがTarmac SL9の発表時に公開した比較データです。
Specializedは、動く脚を再現したマネキンを用いて、Tarmac SL9と主な競合モデルの加重平均CdAを測定しています。
| バイク | 加重平均CdA |
| Cervélo S5 | 0.2215 |
| Tarmac SL9 | 0.2227 |
| Colnago Y1Rs | 0.2227 |
| Factor ONE | 0.2231 |
| Tarmac SL8 | 0.2251 |
この試験ではS5が最も小さなCdAを記録していますが、Tarmac SL9との差は0.0012、Factor ONEとの差でも0.0016しかありません。
測定条件によって変わるため厳密な換算はできませんが、標準的な空気密度を用いて45km/hで単純計算すると、S5とFactor ONEの差でも約2Wです。
2Wの差は、トップレベルのタイムトライアルであれば無視できないかもしれません。その一方で、ライダーの姿勢やウェア、装備、風向きのわずかな違いによって変わり得るほど、小さな差でもあります。
Factor ONEは、従来のロードバイクとは別物に見えるほど大胆な形をしています。Y1RsやS5も、それぞれ独自のフロント周りの構造をしています。一方、Tarmac SL9は細部こそ大きく変わっているものの、シルエットだけを見れば比較的オーソドックスなロードバイクです。
それでもライダー込みで測定すると、最新4台の差はごくわずかでした。
もちろん、これだけで「フレームによる空力差はない」とまでは言えません。実験室から出て実走ともなれば、ヨー角、ライダーの体格や姿勢、ハンドル高、ホイール、タイヤ、ボトルの有無などによって、バイク同士の順位や差が変わる可能性は十分にあります。
また、この数値はSpecialized自身が行った試験によるものです。測定が間違っているという意味ではありませんが、競合メーカーが異なる条件で測定すれば、別の結果になる可能性もあります。
それでも今回の結果からは、現在のトップモデル同士では、見た目の違いから想像するほど、ライダー込みの空力性能に大きな差はない可能性が見えてきます。
▶なぜ空力性能の差は小さくなってきたのか
理由の一つは、各社の空力設計が成熟してきたことだと思います。
ケーブル類は完全に内装され、ハンドルとステムも一体化。各チューブには、翼断面を途中で切り落としたようなカムテール形状など、空気の流れを考慮した断面が広く採用されるようになりました。
さらに、タイヤ幅とリムの内幅・外幅まで一つの組み合わせとして最適化され、フロントホイール周辺で生じる空気の流れを、フロントフォーク、ヘッドチューブ、ダウンチューブへ連続的に導く設計も珍しくありません。
さらに、タイヤ幅とリムの内幅・外幅まで一つの組み合わせとして最適化され、フロントホイール周辺で生じる空気の流れを、フロントフォーク、ヘッドチューブ、ダウンチューブへ連続的に導く設計も珍しくありません。
現在のトップモデルには、最初から大きな弱点がほとんど残っていないのです。
もう一つは、フレームがシステム全体の空気抵抗に占める割合が、それほど大きくないことです。
フレーム単体の抵抗を数%減らせたとしても、ライダーが乗ったシステム全体で見れば、その改善率は小さくなります。また、ある部分の空気抵抗を減らしても、その後方で別の乱れが生まれれば、単純な足し算にはなりません。
空力パーツでよく見られる「ハンドルで数W、ヘルメットで数W、ホイールで数W」という数値も、すべてを交換すればそのまま合計されるとは限りません。それぞれが周囲の部品やライダーと影響し合うからです。
そしてUCI規則の範囲内で、二つの車輪を持ち、その間に人間が乗るという基本構造も変えられません。
各社が違う道から空力性能を追求しても、物理的に効率のよい範囲へ近づくほど、最終的な数値は収束していくのではないでしょうか。
▶なぜSpecializedは極端なエアロ形状にしなかったのか
ここからは、公開された測定結果と設計を見たうえでの、私個人の考えです。
Specializedは、特殊な形状のフレームを作る技術がないメーカーではありません。自社の風洞設備「Win Tunnel」を持ち、長年にわたって空力性能を研究し、現在はペダリングする脚の動きまで再現して測定しています。
「Aero Is Everything」という言葉も、Specializedが長年掲げてきた有名な考え方です。
過去には、軽量オールラウンダーのTarmacとは別に、空力性能を徹底的に追求したVengeというエアロロードが存在しました。しかし現在、Vengeが担っていた役割はTarmacへ統合されています。
過去には、軽量オールラウンダーのTarmacとは別に、空力性能を徹底的に追求したVengeというエアロロードが存在しました。しかし現在、Vengeが担っていた役割はTarmacへ統合されています。
現在のSpecializedは、空力性能を何よりも優先しているわけではありません。同社の公式サイトでも、空力性能を軽さや反応、ハンドリング、乗り味と統合することが重要だと説明しています。
空力性能の重要性を早くから訴え、研究を続けてきたSpecializedだからこそ、空力だけを追い求めた先にある限界や、失われる性能についても理解しているからなのかもしれません。
新型のTarmac SL9も、Factor ONEほど極端なエアロ形状にはしませんでした。
もちろんSL9が保守的な設計というわけではありません。
ヘッドチューブは従来より4mm細くなり、ヘッドチューブ部分の前面投影面積を10%削減。フォークにはねじれた形状のFlow Forkを採用し、ダウンチューブ位置を下げ、シートチューブ後方にはWin Finと呼ばれる形状を設けています。シートポストも、動く脚によって生まれる空気の乱れを考慮した形へ変更されています。
外観上は大きく変わっていないように見えても、実際にはほぼすべてのチューブへ細かな変更が加えられています。
それでも極端なエアロ形状へ進まなかったのは、空力性能だけを最大化することが、レース全体を最速で走る答えではないと考えたからではないかと考えております。
空力性能をさらに1W改善するために、
・フレーム重量が増える
・必要な部分の剛性を確保しにくくなる
・路面からの衝撃を逃がしにくくなる
・横風の影響が大きくなる
・ハンドリングが変化する
・サイズによって性能差が生まれる
・専用部品が増え、調整や整備が難しくなる
といった代償が生じるのであれば、必ずしもレース全体としてみて、速くなるとは限りません。
もちろんFactor ONEが実際にこれらの問題を抱えている、という意味ではありません。極端な形状を成立させながら、ほかの性能も確保している可能性は十分にあります。
ただし、フレーム設計では一つの性能だけを独立して最大化できるわけではなく、何かを大きく変えれば、重量、剛性、乗り心地、操作性などにも影響が及ぶ可能性があります。
トップモデル同士で得られる空力差がわずかになってきた現在では、あと1Wを削減できるかだけでなく、その1Wのために何を失うのかまで考える必要があります。
ではSpecializedは、空力性能とそれ以外の性能を、どのような基準で一台のバイクにまとめたのでしょうか。
その答えとして示されたのが、「Time to Finish」という考え方です。
▶Specializedが出した「Time to Finish」という答え
SpecializedはSL9を「最も空気抵抗の少ないロードバイク」としてではなく、「Time to Finish」という考え方を前面に出しています。
これは風洞内で測定したCdAだけを比べるのではなく、空力性能や重量などをもとに、実際のコースを走り切るまでの時間を評価するものです。
レースには平坦路だけでなく、登りや下り、コーナーがあり、加速と減速も繰り返されます。そして実際のレースにおける速さには、空力性能や重量の数値だけでは表しきれない部分もあります。
そこでSpecializedが求めたのは、一つの条件だけで最も優れたバイクではなく、レースのスタートからフィニッシュまで、総合的に速さを失わないバイク、ということです。
Specialized自身の測定では、ライダー込みの空力性能でS5がSL9をわずかに上回っています。しかしSL9は、その差を非常に小さく抑えながら、より軽量に仕上げられています。
空力性能ですべてのバイクを圧倒するのではなく、最速級の空力性能を確保したうえで、軽さや走行性能を高い次元で両立させる。それが、SL9の基本的な考え方なのだと思います。
SpecializedがSL9について「instant response(踏み込んだ瞬間に応える反応性)」や「telepathic handling(ライダーの意図を読み取るかのような、意のままに操れるハンドリング)」と表現していることからも、空力性能だけではなく、踏み込んだときの反応や、ライダーの意図どおりに動く操作性まで重視していることが分かります。
一つの例として、コンプライアンスもあり、これは単なる乗り心地の問題ではありません。
路面からの衝撃を適切に逃がすことができれば、タイヤが跳ねにくくなり、接地が安定します。荒れた路面でもペダリングを続けやすくなり、車体や上半身の動きが安定することで、身体への負担も抑えられます。
その結果、空気抵抗の少ないエアロフォームを維持しやすくなるだけでなく、パワーを安定してかけ続けることにもつながると考えられます。
空力性能で1~2W優れていても、ライダーが安定せず、姿勢を維持できなくなれば、その差は簡単に失われてしまいます。
そう考えると、速く走るために重要なのは、風洞内で記録した空気抵抗の小ささだけではありません。
SL9が目指したのは、最速級の空力性能を確保しながら、軽さ、反応、ハンドリング、コンプライアンスを一台の中で高い次元にまとめることです。
一つの性能だけを最大化するのではなく、ライダーがレースの最後まで、そのバイクが持つ速さを使い切れるようにする。
それが、Tarmac SL9でSpecializedが示した答えなのだと思います。
▶まとめ:空力性能の競争は、次の段階へ
今回の風洞試験から見えてきたのは、空力性能の進化が限界を迎えたということではありません。
ロードバイクにとって空気抵抗は、これからも速さを左右する最も重要な要素の一つです。しかし、その競争の中身は変わり始めているのではないかと感じています。
これまでは、フレームを薄くする、ケーブルを内装する、チューブを翼断面に近づけるなど、主にバイクそのものの空気抵抗を減らすことが追求されてきました。
しかし現在のトップモデルは、その多くがすでに非常に高い水準へ到達しています。ライダー込みで見た空力性能の差は、フレーム形状の違いから想像するほど大きくありません。
車体単体の空力性能はもちろん重要です。ただし実際のロードバイクには人間が乗り、脚を動かし、さまざまな方向から風を受けながら走ります。そしてシステム全体の空気抵抗の大部分を生み出しているのは、バイクではなくライダーです。
だからこそ、これから問われるのは「最も空気抵抗の少ないフレームはどれか」だけではありません。
空力性能:ライダーが乗ったときに、全体の空気の流れをどれだけ整えられるか
ポジションとコンプライアンス:空気抵抗の少ない姿勢を作り、その姿勢をどれだけ長く維持できるか
総合的な走行性能:重量、反応、ハンドリングまで含め、さまざまな場面で最後まで速さを失わずに走れるか
SpecializedがTarmac SL9で示した「Time to Finish」という考え方は、まさにこの変化を表しているように思います。
今後はロードバイクの空力性能として、フレーム、バイク単体ではなく、ライダーの体格や姿勢、動く脚、ハンドル幅、ホイール、タイヤ、ボトル、ヘルメット、ウェアまで含め、バイクと人間を一つのシステムとして開発する流れが、さらに深まっていくと思います。
おそらくそこに、次世代のレーシングバイクが向かう先があるのだと思います。
参考サイト+++++++++++++++++++++++++++
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また整備内容によっては、車体メーカー、モデル名、ホイール、コンポーネントなども合わせてご連絡をお願い致します。
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コメント
コメント一覧 (3)
エアロが行き詰った感あるので次に来るのは32インチホイール大径化かもしれないですね。
リアホイール後方にcrankがあり前方投影面積はロードバイクの半分以下、TTマシンに似たポジションで200Wで40kmを維持出来ます。後ろに蹴り出すポジションでダンシングも可能です。